リドルにおける彼女の考察
僕の名前はトム・リドル。
闇のような黒い髪に、母譲りの深紅の瞳。
顔立ちは悪いほうじゃないと思うよ。
ホグワーツを首席で卒業したはず。
現在の僕はヴォルデモートと呼ばれているらしい。
僕は「はず」とか「らしい」というのは、僕は記憶の存在だから。
16歳の時の記憶を日記に封じた。
それが僕。
何のためかといえば、スリザリンの秘密の部屋を再び開く為。
僕はその為にホグワーツに帰ってきた。
ジニー=ウィーズリーという少女を器にして…。
『ねぇ、トム。聞いてるの?』
『聞いてるよ?なんだい、ジニー』
昔の優等生ぶりはいまでも健在。
器の下らない話し相手を嫌なそぶり見せずに聞いてやる。
でも、『トム』と呼ばれるたびに殺意が芽生える。
まぁ、どうせこいつは僕を蘇らせる為にその命を落とすんだからいいか…と思う。
『それでね、フレッドとジョージってば張り切っての弱点を見つけてやるって言ってるのよ?』
『そんな兄を持つと大変だね』
当たり障りのない返事を返した僕だが、彼女からできた名前。
・。
黒い髪に黒い瞳。
ハリー=ポッターとは違う楕円の眼鏡を書けた、ただの少年。
ま、顔立ちは悪くはないと思うけどよくもないって所だろうね。
あえて言うなら、感じる魔力が他の生徒達と比べて格段に弱い。
ただのマグルだと言ってもいいくらい、僕には彼の魔力は感じられない。
けれど、気になっていることが一つある。
―をただの半人前の魔法使いだと思っているうちは、お前はその程度ということだ。
僕に良く似たスリザリンの制服を来た少年が言った言葉。
その言葉が気になっていた。
という少年はどう見ても、何の変哲もない普通の少年だ。
だけど、気になった。
彼も僕と同じような闇を抱えているように見えた。
その彼がそこまで大切にする存在に興味が沸いた。
*
「!!今日こそクィディッチの練習に付き合ってもらうよ!」
「何度も言ってますが、僕の飛行訓練の成績ではクィディッチなんて無理ですよ、ジョージ先輩」
「そんなことないさ!僕らは君の真の実力を知っているんだ!」
「そう!のその実力なら怖いものなしさ!」
「でも、クィディッチの選手はフルメンバーいるでしょう?追加のメンバーなんか必要ありませんよ」
「必要ない?あのクィディッチの試合を見てそんなことを言うのかい?!」
「クィディッチは激しいスポーツだから、補欠は必要不可欠さ!」
器の双子の兄達が彼をクィディッチに誘うのはいつものことだ。
器はそれを傍観者的に眺めている。
あのそっくりな双子を見分けられるのは凄いと思ったけど、ただそれだけだ。
「しつこいですよ!ウィーズリー先輩方!!ポッター君も笑って見てないで何とか言ってよ。僕の飛行訓練の成績知ってるでしょ?」
「僕はが選手になるのは賛成だから」
「っ…!ウィーズリー君、なんとか言ってやってよ!」
「ハリーとフレッドとジョージがそれでいいなら、僕は反対も何もないけど?」
「あっさり賛同しないでよ!前は反対してたじゃない!」
「前は前だよ。君ことが良く分かってなかったしね」
「…ぅぅ」
双子に説得を受ける彼。
それを楽しそうに眺めているハリー・ポッター。
僕はなんでそんなに彼がクィディッチの選手になるのが嫌なのか分からない。
お祭り好きのグリフィンドール生ならば、クィディッチの選手になれるなんて歓迎すべきことだろうに。
「お兄ちゃんたちが、ここまで言うんだから引き受けてみればいいじゃないの?」
僕は器を操りそう言ってみる。
彼はその言葉に顔を顰めた。
「絶対嫌」
きっぱり言い切る。
「酷いや!僕らがこんなに誠心誠意で説得しているのに!」
「どこが、誠心誠意ですか?!」
「どこがって勿論!何を言われても君を説得することに命をかけるところとか!」
「そのためならば、スネイプへの悪戯すらも諦めてみせるよ!」
「命をかけないでください!それから教授への悪戯は満足のいくまで好きなだけしても構いませんから、僕の説得は諦めてください!」
「聞いたかい?相棒?」
「勿論だとも!」
「はスネイプへの悪戯を歓迎するようだ!」
「それは是非ともスネイプへとっておきの悪戯をしなくては!」
はしゃぐ双子。
彼は思いっきり疲れたようなため息をつく。
まぁ、いつものことだね。
纏わり疲れるのが嫌なら相手をしなければいいだけなのにね。
彼はかたんっと席を立ち、この場から逃げることに決めたようだ。
双子は悪戯の相談をしていて夢中。
その話にハリー・ポッターもその友人達も加わっている。
彼はそのうちにこっそりと席をたっていった。
僕も彼を追いかけるようにこっそりと席を立つ。
*
「はぁ、全く毎度のことながらあの二人はかなり厄介だよ」
独り言なのか。
僕が後ろから付いてきていることに気付かない。
器は何の変哲もない少女だが、僕が操れば気配をたって忍び寄ること程度は簡単だ。
「だって、パーシーもフレッドとジョージ達にはかなわないもの」
器の体を借りて僕は言葉を発する。
吃驚したようにふりむく彼。
本当に気付いていなかったらしい。
「私には、悪戯の話なんてつまらないから逃げてきちゃったわ」
肩をするめる。
普通の少女のふりして話すことなんて意外と簡単なものだよ。
演技する事は慣れているしね。
「私、に言っておきたいことがあったの」
「ん?何?」
試してみよう。
彼が何て答えるか。
「前にと一緒にいたあの、スリザリンの人なんだけど…」
「うん?」
「が彼こと大切だと思うのは分かるけど、一緒にいるのは良くないと思うの」
「どうして?」
「だって、彼はスリザリン生なのよ。『例のあの人』と関わり合いがあるかもしれないのよ?」
あれだけ僕にそっくりなんだ、関係ないはずはない。
でも、彼はあの時、否定しなかった。
―裏切るってことは、その人って『例のあの人』と何か関係があるの?
―否定もしないし肯定もしないでおくよ。
「スリザリン生だからといって、ヴォルデモートと関わりがあるからといって、その人の本質を見ない事は良くないことだと思うよ?ウィーズリー。まぁ、これはヴォルデモート卿の闇の時代を体感していない僕だから言えることなんだけどね」
彼はそう言って寂しそうな笑みを浮かべた。
どういうことだ?ヴォルデモートの闇の時代を体感していない?
それはマグルの世界で生きてきたから、ヴォルデモートの存在を知らなかったからか?
いや、何故だか違う気がする。
でも、それよりも…彼の言葉に僕は…
「じゃあ、、聞かせて」
「何?」
少しだけ、少しだけ忘れていた気持ちが浮き上がる。
まだ、誰かを信じたかった頃の気持ち。
孤独が嫌いで、寂しさが悲しかったころの。
「どんなに深い闇を持っていても、その手がすでに穢れてしまっていても、その人を信じる事はできる?受け入れる事は出来る?」
期待はしない。
それは裏切られた時の絶望感が嫌だからだ。
だから、期待するなんて事はやめた。
それは、ホグワーツに入学する前のこと。
誰も信じず、独りでいる。
圧倒的な力で人を支配することでしか信用できないと思っていた。
そう、思い始めていたんだ。
「その人の真実を見ようとすることが出来る?」
僕はヴォルデモートの過去だ。
何人もの魔法使いを殺めてきた。
君の友人、ハリー・ポッターの両親をも手にかけている。
それが未来の僕だ。
それを知っても、それを理解しても、君は本当の僕を見つけるつもりかい?
「相手がそれを望む限りはね」
彼はそう言って微笑んだ。
真直ぐなその視線は嘘偽りがないものだと分かる。
「相手が少しでもそれを望んでいる限りは僕は、相手の真実を見つけたいと思うよ。だって、勘違いされたままっていうのは凄く嫌だからね」
「怖く、ないの?」
「怖い時も多分あるよ。でも、やっぱり、限られた時間かもしれない中では後悔はしたくないんだ」
「限られた時間って?」
寂しそうに微笑む彼。
さっきと同じ笑みだ。
何かを隠しているような笑み。
「人の命は限られているから、だよ?ウィーズリー」
誤魔化された気がした。
確かに人は寿命と言うものがあるけれど、彼はそういう意味で言ったんじゃない。
どうしてこんなにも気になるのか分からない。
でも、確かに僕は・に興味を持っている。
それは、昔、まだ幼かった頃に期待していた言葉を彼が言ってくれるかもしれないからか。
僕の中にある深い、深い闇のを受け入れてくれるかもしれないという期待からなのか。
まだ、この気持ちをなんと言っていいのか分からないままだった。