ホグワーツ特急





今年は、はホグワーツ特急でハリー達と一緒にキングクロス駅まで行けることになった。
去年は追試で1人残らなければならなかった。
2年生も終わり、ホグワーツ特急のコンパートメントの中、ハリーが秘密の部屋のことについてを少し興奮気味で語っていた。
コンパートメントの中には、、ハリー、ロン、ハーマイオニーの4人である。
秘密の部屋についての話はハリーはロン達に1度はしたらしいが、詳しく聞きたいとロンが言った為である。

「バジリスクが暴走して…リドルは力尽きて日記から消えたんだ」

ハリーが少し迷うようにして紡ぐ言葉は真実とは少し違うもの。
ホグワーツ特急に乗る前、ハリーはに言った。
「ヴォル」のことは話してない、と。
きょとんっとしたにハリーは付け加えたのである。
曰く、ヴォルに助けられたのが気に入らない。

が僕とジニーを守ってくれなかったら」
「でも、ポッター君が最初にバジリスクに剣を突き立てなければ、バジリスクは暴走したままだったよ」

話を合わせる
ハリーの話も、聞く側のロン達もまだ子供だからごまかしが聞く。
1度ハリーが話したときもざっとだけで、突っ込むほど詳しいことではなかったのだろう。
ヴォルのことを話さないハリーにはありがたいと思った。

「あ、車内販売だよ。すみません!」

話がひと段落したところに車内販売が来る。
は呼び止めて、かぼちゃジュースを4つ頼む。
お金は自分で払って、ハリー、ロン、ハーマイオニーに渡す。
の渡し方があまりに自然で、ハリー達は何のためらいもなく受け取って飲む。
ハリーは別にお菓子を買って、広げる。
ハーマイオニーがかぼちゃジュースを飲んだ後にはっとする。

「あ、。かぼちゃジュースのお金!」
「え?別にいいよ、グレンジャー。今度グレンジャーに勉強教えてもらうから」
「勉強って…は私が教えるほど頭悪くないでしょう?」
「そんなことないよ。実技関係とかめちゃくちゃ駄目なんだから、僕。あ、ウィーズリー君も実技関係得意なようだから頼むね、ポッター君も」

にこっとは笑みを見せる。
そのための賄賂だから、とは言外に言っているのである。
かぼちゃジュースなどそう高いものではない。
だから、勉強を教えてもらう変わりにそれを奢るということ。
今年もテストこそなかったものの、手順や知識を覚えるだけのことならばはかなり成績はいいほうだ。
だが、実技関係は本当に学年でビリだ。
進級に困らない程度は、力を使ってやっているが…まるっきり駄目である。

って…」

ハーマイオニーがじっとを見る。
ん?とはかぼちゃジュースを口に含みながら、目で問う。

「やっぱりお姉さんみたいだわ」
げほっ…!!

はあやうくかぼちゃジュースを噴出しそうになる。
なんとかむせるだけですんで、げほげほっとセキが止まらない。
ハーマイオニーの言うタイミングも悪かった。

「ぐ、グレンジャー。なんで”お姉さん”なの?」

はホグワーツでは少年だ。
つまり男である。

「ああ、でも僕分かる気がするよ。僕には兄が何人もいるけど、って兄って感じじゃないもんね」
「でしょう?頼れるけれど”お姉さん”って感じだわ」
「あ、あの、グレンジャーもウィーズリー君も、僕、一応男なんだけど…」

一応意見を述べてみる

「分かってるさ」
「何言ってるのよ、
「雰囲気的にって意味だよ」
「そうよ。が男の子だってのは承知してるわよ」

承知の上での発言だとのこと。
ロンもハーマイオニーも同意見らしい。
ハリーだけが苦笑している。

って頼りがいあるもの」

ハーマイオニーがにこにこと言う。

「怪しいトコだらけだけど、危ない時には絶対になんとかしてくれるって感じがするしね」

ロンが当然のように言う。
に助けられたことのあるロンだからこそ言える。

「前々から思っていたの。っていろんなこと知っているし、頼りになるし」
「雰囲気落ち着いてるしね。同じ年とは思えないくらいだよ」

(だって、本当に同じ年じゃないし…)

「私にお姉さんがいたら、こんな感じかしら?って思ったの」
「僕には兄ばっかりだけど、お姉さんがいたらみたいな感じなんだろうね」
「僕は一人っ子だから分からないけど、みたいなお姉さんなら欲しかったな…」
「だから、僕は女の子じゃないんだけど…」

一度少年の姿でいると決めた以上、これはごまかしとおさなければならない。
今は少年の姿でいてよかったと思うことはいくつかあるのだし。

「僕にだってできないことなんて沢山あるんだよ?」

頼りがいがあるとハーマイオニーは言うが、頼り切られても困る。
できないことも沢山あるのだから。

「そんなことは分かってるわよ、
「君が完璧に何でもできるような人だったら反対に近寄りがたいよ」
ってたまにどこか抜けているところがあるしね」

3人とも同意見だというように顔を見合わせている。
近寄りがたいわけでもなく、けれどもいざというとき頼りになる。
それが”お姉さん”ぽいのだろう。
は微妙な気持ちでホグワーツ列車のコンパートメントの中を過ごしたのだった。

(お姉さんって…、いいけどね、別に……)





キングクロス駅。
のお迎えはリーマスである。
継ぎ接ぎのローブににこやかな笑み。
その笑みにはどこか疲れが見える。

「お帰り、
「うん、ただいま、リーマス」

にこっとは笑みを見せる。

「リーマス、ちゃんと食べてた?顔色悪いよ?」
「大丈夫だよ」

苦笑するリーマス。
そうは言ってもリーマスの顔色は悪い。
でなくても心配したくなるほどに。

!また新学期に」

くいっとハーマイオニーに腕を引かれて、頬に軽くキス。

「ぐ、グレンジャー?!!
「ただの挨拶よ」

は慌てたようにハーマイオニーから離れる。
この国ではそう珍しくない挨拶だろう。
ハーマイオニーは全然平気そうな顔である。

「手紙出すわね、も手紙頂戴」
「あ、うん。勿論だよ」

じゃあ…とハーマイオニーはそのまま駅で待っていた両親の元へと行った。
はハタっとロンの方を見るが、ロンはウィーズリー家の両親達との再会を喜んでいて先ほどのシーンを見ていなかったようである。
それにほっとする
あんな場面を見られたら、ロンは絶対に変に怒るだろう。
しかも、自分の気持ちに自覚がないため怒る理由が分からずに怒るのだと思う。

、モテモテだね」

からかうかのようにリーマスがにこにこと笑みを見せる。
分かってて言ってるのだろう。

「リーマス…」

は少し睨むようにリーマスを見る。
ふと、ハリーの視線に気付く。
ハリーにも迎えは来ているようだが、ダーズリー一家はかなり不機嫌そうな表情である。
とリーマスを見て、ハリーは少し迷ったようだがこちらに向かってくる。

「あの、ルーピンさん!」
「なんだい、ハリー?」

にこりっと裏のない笑顔でリーマスは微笑む。

「前は少ししか聞けなかったけど、今度また、僕のお父さんとお母さんの事、教えてもらえますか?」

クリスマス休暇中、ハリーは少しだけリーマスにジェームズ達の事を聞いた。
けれど、それはほんの短期間で、少しだけしか聞けなかったことをも知ってる。
ハリーはまだ、リーマスとジェームズ、そして今はいない他の2人の4人が、かつて『悪戯仕掛け人』であったことは知らない。
リーマスとジェームズ、そしてリリーがただ同級生であることを知っているだけだ。

「勿論だよ。当時の写真があれば君に送るよ。時間があるときにジェームズの冒険話を聞かせてあげよう」
「本当ですか?!」
「本当だよ、ハリー。家に戻ったら写真を探してみるよ」

ハリーの表情がぱっと明るくなる。
よかったとほっとしたようにも見えた。
そして、ハリーはの方を見る。


「うん?」

ハリーはに近づいて、ハーマイオニーがやったようにの頬に軽くキスをした。

「は、ハリー?!」

思わずファーストネームで呼んでしまう。
すぐにぱっと口元を押さえるだったが、目の前の驚いたような表情のハリーにはばっちり聞こえてしまっていたようだ。

「挨拶だよ、
「ふ、普通は同性同士ではしないと思う、けど…」

そういう常識はには分からない。
ハリーはにこりっと笑みを浮かべて小さな声でささやく。

「でも、は女の子でしょう?」

本当にそれは小さな声で、駅のざわめきの中にすぐに消えてしまったけれども。
にはその時のハリーの笑顔が黒く見えて仕方なかった。
わかっていてやってるような感じがしたのだ。

「じゃあ、手紙送るよ、
「う、うん。僕も手紙送るから、ポッター君」

僅かに顔を赤くしながらはハリーを見送る。
最後はきちんとファミリーネームネーム呼びに直して。
けれども、ハリーは呼び方をあまり気にしている様子はなかった。
とダンブルドアの言葉に納得しているのだろうか。

、モテモテだね」

くすくすっとリーマスが横で笑う。

「そんなんじゃないって、リーマス〜」

ハリーもハーマイオニーもの事は”お姉さん”のように思っている。
慕っているのは違いないだろう。
に変な虫がつっくけば、嫌がるだろうけれども恋愛感情ではないことは分かる。

(慕ってくれるのは嬉しいけど、盲目的に信じないで欲しいよ。私は、裏切るかもしれないから…)

複雑な気持ちを抱えるだった。