悪戯仕掛け人
比較的真面目な話は終わった。
それでも、今から眠るには少し時間が遅すぎる。
、ヴォル、ジェームズは夜明けまで語り合うことにしていた。
「そういえば、ジェームズさん達をホグワーツで見ましたよ」
ふと思いついたことを口にする。
ダンブルドアに強制されてセブルスの部屋に隠れていた時期、ちょっと抜け出して見つけた隠し部屋で見た映像。
学生時代のジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター、そしてセブルス。
「え?どこでだい?」
「えっと、確か、隠し部屋でしたよ?ルーン語が呪文になってて」
「ああ、あそこだろうね。途中でセブルスが乱入してきた」
「乱入、かどうかは分かりませんが、確かに途中で教授が…」
そこで、あの時セブルスに散々叱られたことを思い出す。
思わず顔を顰める。
その後、当分あの部屋に閉じ込められていたのだ。
退屈で仕方なかった、といっても、セブルスの部屋の本を散々読み漁っていはいたのだが。
「他にも同じような部屋がいくつかあったからね。ちゃんとしたメッセージ残せたのもあったよ」
「え?本当ですか?」
「勿論だとも。僕ら「悪戯仕掛け人」がいたというちゃんとした証拠を残したかったからね」
「じゃあ、学校が始まったら探してみますね」
にこっとジェームズに笑顔を返す。
だがのその言葉に、ヴォルは少し顔をしかめ
「それはやめとけ、」
思いっきりため息をつく。
「何さ、ヴォルさん。私には見つかるはずないって思ってるの?」
「そういう訳じゃない。隠し部屋を見つけるだなんて危ないだろ?」
「大丈夫だよ」
「お前の場合、大丈夫そうじゃないから言ってるんだよ、俺は」
「それ、どういう意味?」
むっとする。
しかし、思い出して欲しい。
去年のの怪我の数と、トラブルに巻き込まれたことを思えばヴォルの言い分の方が正しい。
「そのままの意味だ。少しは自覚しろ」
「これでもちゃんと自覚はしてるよ。ヴォルさんが過保護すぎなの」
「俺のどこが過保護だ。お前が無自覚なだけだろう?」
「ヴォルさんが過保護!」
「が無自覚だ」
決して譲らない二人。
むっとしたまま睨み合う。
どっちもどっちであるだろう。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
ジェームズがなだめる様に二人の間に入る。
苦笑しているところをみると、どっちもどっちだと思っているのだろう。
「も黒猫君も、落ち着いて。、とにかく僕らの話をしてあげるよ。どちらにしてもは僕の親友達に会うことになるだろうから知っておいて損は無いはずだよ?」
「是非、聞きたいです!」
「聞くだけにしとけよ、こいつらがやったことを実際体験しようなんて思わないようにな」
「ヴォルさん、やけに突っかかるね」
がちらっとヴォルを見れば、ヴォルはふんっとそっぽを向く。
ヴォルにしてみれば、が楽しそうにしているのがどこか気に入らない。
ジェームズの話に興味を持つのはいいのだが、それがどこかムカムカしてくるのだ。
「は知っているかい?僕ら仲間のあだ名を?」
ジェームズは話し始める。
はその言葉にはっきりと頷く。
親世代ファンならば誰もが知っているであろう、彼らのニックネーム。
「プロングス、パッドフット、ムーニー、ワームーテイル。僕ら悪戯仕掛け人の名前さ」
ジェームズは懐かしそうな表情をする。
昔を思い出しているのだろう。
彼ら4人は悪戯仕掛け人として有名だ。
現在でもそのあだ名だけは知られていることもある。
ウィーズリーの双子など彼ら悪戯仕掛け人達を尊敬すらしているようだ。
「Prongs(プロングス)は、僕のこと。僕は鹿のアニメーガスでね、勿論魔法省には内緒だよ?未登録のアニメーガスかだからね」
「はい、知ってますよ」
「そうかい?それならいいけどね。ムーニー以外は未登録のアニメーガスである目的のために勉強してアニメーガスになったんだよ。懐かしいな〜。あの頃はただがむしゃらに頑張っていたんだよね」
そのことは知ってる。
人狼であるムーニーこと、リーマス=ルーピンと満月の夜も一緒にいられる為に、大切な親友を満月の夜の孤独から救ってやる為にアニメーガスになったこと。
そして、アニメーガスは一介の学生がなれるような簡単なものではないことも。
「そう言えば、リリーがね。僕が鹿ならばシリウス、ああ、パッドフットのことなんだけど、彼は「馬」になるべきだ!って言っていたんだよね。どうやらどこかのアジアの国の言葉で「鹿」と「馬」の組み合わせが僕と彼の組み合わせにそっくりだって言っていたんだよ。はどういう意味か知っているかい?」
「鹿と馬ですか?」
は少し考える。
(鹿と馬、鹿、馬…馬と鹿…馬、鹿…馬鹿…って待てよ確か…。「馬」という字と「鹿」という字でなんて読む…)
ぷっ…
「リ、リリーさん…が、ジェームズさんたちのことを、どういう風に考えていたのか分かった気が…」
笑いで言葉が途切れ途切れになる。
馬と鹿。
「馬鹿」と書いて、「バカ」と読む。
日本人にしか分からない意味だろう。
「その反応は知っているんだね、は。どういう意味だい?」
「い、言っても怒りません?」
「怒らないよ?どういう意味かの方が気になるさ」
知らないからジェームズは爽やかに問うのだろう。
「バカって読むんですよ」
まだ少し笑いをこらえながら答える。
「は…?」
の言葉にジェームズは一瞬表情が固まる。
困ったようにはもう一度言う。
「馬と鹿と書いて、日本では「バカ」と読むんですよ、ジェームズさん」
「な、なんだって?!」
意味を理解したジェームズは驚く。
まさかそんな意味とは思っていなかったようだ。
「酷いや、リリー。ヘタレ黒ワンコはともかく僕まで「バカ」だなんて」
シリウスのことは否定しないようだ。
落ち込む様子を見せるジェームズに苦笑する。
でも、よくもまぁ、リリーはそれを調べられたと思う。
日本語は比較的難しい言語のはずだ。
英語と文法が違うために覚えにくい。
だからこそなのか、日本人も英語を覚えにくかったりする。
「ところでジェームズさん。そのヘタレ黒ワンコって」
「ああ、パッドフットのことだよ。本名シリウス・ブラック、黒髪で黒い瞳の顔だけよくて女たらしの、それでいて結局この年まで独り身の寂しいヘタレ」
そこまで言う。
それでもジェームズの言葉の感情からはからかうような響きはあれど、シリウスを大切だと思っていることが分かる。
信じている大切な親友だからこその憎まれ口のようなものなのだろう。
「シリウスはね、名家の息子なんだよ。家が純血主義でえらく嫌ってたよ、休暇中はよく僕の家に来てたしね」
「でも、ジェームズさんとは一番気が合ってました?そのシリウスさんは?」
「そうだね、他の2人も大切だけど、一緒にふざけ合うのはいつもシリウスとだったな。悪戯の発案者が僕、実行役がシリウス、フォローが他の二人。僕とシリウスが衝突して止められるのはリリーか、リーマスだったな」
「ムーニーですか?」
「よく知っているね」
少し驚きを見せるジェームズだが、何故知っているか深くは追求してこない。
それはそれで助かるのでも特に言わない。
「勉強が僕ほどじゃないけどそれなりにできて、クィディッチの選手でもあり、顔立ちもいいシリウスだけど。単純でバカなんだよね、これがまた」
ジェームズほどじゃないがそれなりに勉強できるといっても、普通の人からすればそれはすごいのだろう。
ジェームズもリリーも学生時代勉強においてはトップクラスだったようだ。
基準が違うとでも言うのか。
「ムーニーの本名は、は知っているようだけどリーマス・ルーピン。僕ら悪戯仕掛け人の影の支配者さ」
「影の支配者って」
「リーマスを怒らせるもんじゃないと、僕はある時悟ったよ。特にリリーと一致団結した時のリーマスほど怖いものは無いね。絶対敵にまわしたくない」
リリー&リーマス。
彼らがタッグを組んだ時。
それはそれは、周りが怯えるようなどす黒いオーラを撒き散らすことだろう。
にっこり笑顔つきで。
「リーマスの機嫌が悪い時は、甘いモノを与えておけばOKさ。特にチョコレートが大好物のようだからね」
「甘党なんですか?」
「甘党だなんてそんなもんじゃないよ、!リーマスに会ってもし彼のいれた紅茶を飲む機会があったら、絶対砂糖は入れないようにと言うべきだ!一度リーマスの入れた紅茶を飲んだ時はあまりの甘さに、甘いモノが大嫌いのシリウスなんか卒倒したからね!」
あとでリーマスに聞けば砂糖を5つ入れたらしいとのこと。
ちなみにその時のリーマスの紅茶にはその倍が入っていたとな。
見ているだけで胸やけをしそうなほど砂糖をどばどばっと入れるそうだ。
「甘いモノ嫌いと言えば、犬猿の仲にも関わらずそれだけは同じだったな、シリウスとセブルスは」
「シリウスさんと教授ですか?」
「そうだよ。それにしても、セブルスが「教授」だんなんて聞くと違和感があるな」
同年代の友人である(とジェームズは思っている)セブルスが教える立場にいる。
彼の授業を聞き、教わったものがいる。
それはとても妙な気分だとジェームズは思った。
「そうですか?」
としては、セブルスは「スネイプ先生」なのだ。
どうも自分の思っていた「スネイプ先生」とは違うのと、スリザリン生がよくセブルスを「教授」と呼んでいたのを聞いてなんとなくその呼び方が定着している。
ちなみにグリフィンドール生は、セブルスの前以外では「スネイプ」と呼び捨てだ。
「あと、残り一人の親友ワームテイルは、とても心優しい親友だったよ。僕とリリーが今一番信じたい相手だよ」
悲しげな笑みを浮かべるジェームズ。
裏切っているかつての親友。
信じたい気持ちと、信じきれない気持ち。
デス・イーターに襲われてもここから逃げないのは、彼を信じたい気持ちを裏切りたくないからなのか。
「ワームテイルには事情があって、本当はジェームズさんやリリーさん、そしてハリーを裏切っていないといいですね」
「そうだね、僕らはそう信じているよ」
嘘でもはそう言いたかった。
信じるのは時にはつらいこと。
この言葉が少しでもジェームズ達の辛さを和らげるならば、嘘もいいだろうと思う。
真実を知っているヴォルのみが、二人を複雑そうな表情で見ていた。
夜明けは近い。
それでも、完全に夜が明けるまでジェームズの話は続いたのだった。