彼女の苦労




は割り当てられた自分の部屋でハリーを抱きかかえていた。
リリーのお願い、もとい強制によりハリーを一晩預かることになった。

「ねぇ、ヴォルさん」

黒猫姿のヴォルは窓の外を見たままに答えようとしない。
ハリーを抱かかえて部屋に入ってきたとたんに顔を顰めたヴォル。
が事情を話せば、不機嫌一直線。
口も聞いてくれない状態である。

「あぅー、ねー?」
「ん?何、ハリー?」
「あーうー」

窓の側にいるヴォルに手を伸ばすハリー。
当たり前だが全然届かない。
はハリーを抱き抱えたままヴォルのほうに近づく。
ヴォルのいる窓は出窓で、すぐ側にベッドがある。
はベッドの上にのって、ハリーをヴォルの側に置く。

「あ〜」

嬉しそうにヴォルの尻尾に手を伸ばすハリー。
ヴォルは気配で気付いたのか、ひょいっとその手を避ける。
するっとハリーの脇を通り、後ろに回る。

「ヴォルさん、駄目だよ避けちゃ。ハリーが可哀想でしょ?」

はひょいっとハリーを持ち上げてヴォルの方に向ける。
再びハリーと向かい合うような形になるヴォル。
不機嫌そうな表情を隠そうともせずにを見上げる。

…」
「いいじゃない、一晩くらい。相手してあげようよ、ね?」
「嫌だな」
「大人気ないよ?ヴォルさん」
「大人気なくて結構」

ふいっと顔を背け、窓から離れるヴォル。
ハリーが名残惜しそうにヴォルの尻尾を見つめる。
大層お気に召したらしい。
何処が気に入ったのかにはさっぱり分からない。

「寝ようか?ハリー」
「う〜」
「ちゃんと夜寝ないとね。今日は私とヴォルさんが一緒だから」
「…ぅ〜」

まだ寝たくないというように不機嫌そうになるハリー。
は苦笑するが、一応リリーに秘策を聞いてある。
毎日リリーが、ハリーが寝るときにしていること。
それをすればハリーは反射的に眠くなるらしい。

「ホラ、寝よ」

ハリーを抱きしめて、ベッドに潜り込む
ゆっくりハリーの頭を撫でる。

「おやすみ、ハリー」

ハリーの額にキスを落とす。
もう一度ハリーの頭を撫でれば、ハリーはとろんっと眠そうな表情になる。
これがリリーの秘策である。

―いつも寝る前にはおやすみなさいのキスしてるのよ。だからそれをすればハリーは大人しく寝るわよ

満面の笑顔でそう教えてくれたリリー。
確かに、ハリーはその数分も経たないうちに寝息を立て始めた。
すやすや眠るその様子に苦笑をもらす
たまにはこうやって誰かと一緒に寝るのもいいものだ。

「随分あっさり寝たんだな」
「リリーさんに秘策教えてもらったらねv煩くしてハリーが起きちゃったら困るからさ、ヴォルさんももう寝よ?」
「ああ、そうだな」
「いいの?随分あっさり…」

してるな、と思っただったが言葉が続かなかった。
ベッドに寝転がっているに覆いかぶさるようにヴォルが手をついていたからだ。
勿論人の姿で、である。
ハリーを抱きしめたままのをはさむ様に両手をついている。

「ヴォルさん?何で寝るのに人の姿になるのかな?」
「いいだろ、気にするな。寝るんだろ?」
「わっ!ちょっと待って!って、勝手にベッドに入ってこないでよー!ひとり用サイズ何だから狭いんだよ?!」
「こうすればいいだろ?」

ハリーがいる方とは反対側に潜り込んできたヴォルは、を後ろから抱きしめる。
はハリーと向かい合っているので、ちょうどヴォルが後ろになる。

「わっ、わっ!ちょっとヴォルさん?!」
「あまり騒ぐな。そいつが起きると困るだろ?」
「こ、困るけど…!手、手!
「手がどうした?」

ヴォルの手はちゃっかりの腰にまわっている。
勿論、片手だけだが。

「わー!ヴォルさん、足!あ、足!!
「足が何だ?」

ヴォルは足を絡めてさらにに体を密着させる。
は背中からヴォルの体温が伝わってくる。

「ちょ、ちょっと、ヴォルさん!」
「何だ?熱いなら冷却の魔法をかけようか?」
「あ、いや、そんな熱くないし、寧ろ体温があったかくて気持ちいい…ってちがぁぁぁう!!

思わず叫んでしまうが、腕の中のハリーがもぞっと動く。

「うゃ、ねー…?」

騒いでいたがぴたりっと止まる。
ハリーが目を覚ましかけている。

「あ、ハリー、なんでもないよ?寝てていいよ」
「ぁう?」
「煩くしてごめんね」
「ぅ…」

ぼや〜とした目をしていたハリーだが、その瞳はまたすぐに閉じられた。
すぅ、と寝息が聞こえてほっとする。
だが、この体勢は困る。

「ヴォルさん、猫に戻ってよ…」
「嫌だ」
「何で?」
「べつにいいだろ。ほら、寝るぞ」
「よくないって…」
「おやすみ、
「あ、おやすみ、ヴォルさん。って、うやむやにしな…ひゃっ?!!

の首筋に何かが触れた。

「ヴォ、ヴォルさん?」
「おやすみなさいのキス、だろ?」
「何で首筋なの?!」
「何だ?口がよかったのか?」
「く、口って!も、いいよ、オオヤスミ…」

(何か言えば更に酷いことになりそうだから、とりあえずこの体勢も我慢して寝ることにしよう。抱きしめられている体温とか、腰にまわった手とか、絡み合ってる足とか、すっごく気になるけど)

気になってはいたものの、はそのまま無防備に寝てしまった。
完全熟睡モードに入ったの髪や首に触れてみたり、唇を落としてみたりするヴォル。

「やっぱり、反応がないとつまらないな」

ふぅっと軽くため息をつき、をしっかり抱きしめなおして寝ることにする。
の温もりを腕の中に感じながら。

次の日の朝、起こしに来たのはジェームズであったのが何よりもの幸いだろう。