信じる気持ち
リリーとは、あの襲撃事件の次の日、昨日と変わらないようにお菓子作りなどしていた。
は元は1人暮らしをしていた身である。
一応料理などは一通りはできる。
お世辞にも上手といえるほどではないが、最低限はできる。
「マグル式での料理の方がいいわよね。もそう思わない?」
「そうですね。私は魔法使いがどういう風に料理するのかを知らないのですけどね」
「あら?はマグル出身なの?」
「ええ、まぁ」
「私もマグル出身なのよ」
だから、料理もマグル式の方が慣れているのよ、とリリーは微笑む。
ホグワーツで魔法を教わっても、家に帰れば魔法など使わない。
使わないというよりも、禁止されている。
「私には妹がいるのよ。昔はよくこうやって一緒にお菓子作りとかもしていたのだけれども、私がホグワーツに通うようになってからちょっと嫌われちゃったみたいで」
(妹、たしか、ペチュニアだっけ?ハリーの叔母さんで、ダーズリー一家の…。その一家は魔法を毛嫌いしてるみたいだからね)
「なんだか、とこうしてると昔に戻ったみたいだわ」
「私はリリーさんの妹ってことですか?」
苦笑する。
明るく微笑むリリーにも嬉しくなる。
こうして一緒に料理することくらいでリリーが嬉しくなるなら、短い間だけでも一緒にいたいと思う。
「そうね。じゃあ、ここにいる間はは私の妹よ」
「じゃあ、ジェームズさんはお兄さん?」
「そうなるわね。でも、そうするとハリーにとっては叔母さんになってしまうのね」
「え?」
(ちょっとこの年で叔母さんって呼ばれるのは嫌かも。まだ20歳にはなっていないのだし)
「あら、でも大丈夫よ。ハリーにを叔母さんだなんて呼ばせないから。絶対「お姉ちゃん」って呼ばせるように躾けるわ」
(その黒笑みで脅してですか?)
思ったが口に出さないことにする。
それが正解だろう。
「学生時代はね。ジェームズによくお菓子を作ってあげてたのよ」
「昔からお菓子作りは上手だったんですか?」
「、その丁寧口調はなしよ」
「え?でも…」
「駄目よ」
「あ、はい。ドリョクシマス」
「」
「あ、う、えっと、ごめん」
所詮リリーの笑みの前には勝てないである。
仕方なしに丁寧口調はやめるようにする。
呼び方のさん付けだけは変えられないが。
「えっと、それで、昔よく作っていたってことは、昔からリリーさん料理上手だったの?」
「そんなことないわ。最初は全然だったのよ、とてもじゃないけどジェームズに食べてもらえるようなモノじゃなかったの」
「でも、今は凄く上手だよ?」
「あらvだって、丁度毒味…もとい味見係がいたもの」
(…毒味って)
「甘いものなら何でもOKの甘味腹黒大魔王とか、笑顔で頼めば逆らわない忠実なヘタレ犬とかね」
(甘味腹黒大魔王って、もしかして…。でも、腹黒大魔王って言うけど、リリーさんも十分黒…)
「。今何を思ったのかしら?」
にっこりと微笑むリリー。
背後に見えるオーラは物凄く怖い。
「い、いえ!!なにも思ってません!!」
慌てて首を横に振りながら答える。
おそらく、学生時代の某ヘタレ犬さんもこんな感じだったんだろうな、と思いつつ。
忠実な犬と思われている彼はどこまでも報われない哀れな人である。
「でもね、ホグワーツは楽しかったわよ。ジェームズと人目を忍んでホグズミードにデートに行ったり、気に入らない占い学の先生をちょっと陥れてみたり、スリザリンの気にいらない生徒にちょっとお仕置きしてみたりね」
(先生方とかへの悪戯ってもしかして、ジェームズさん達4人だけの仕業じゃないんじゃぁ…。影の支配者はリリーさんですか?)
とりあえず、ここにいる短い間だけでもリリーには決して逆らうまいと心に誓う。
ふと思う。
(ハリーってどっちかといえばリリーさん似だよね。ということは、将来のハリーってこんな感じに…)
ちらっとリリーを見る。
ぞくっと嫌な予感が背筋を走る。
いや、考えるのはやめた方が良さそうだ。
「ハリーにもホグワーツに言って、楽しい思いをしてもらいたいわ」
隣の部屋でヴォルと戯れているだろうハリーの方を見るリリー。
十分楽しい、かどうかはともかく、ジェームズさんたちに負けないほどのデンジャラスな学生生活を送りますよ。
はそう思っていた。
1年生の時点でヴォルデモートに対峙するなんてことしでかした。
はヴォルデモートで昨日の襲撃事件の事を思い出す。
あれは、明らかにヴォルデモートの手の者だ。
「あの、リリーさん」
「何?」
お菓子作りの続きを始めていたリリーには話しかける。
今、このままいつも通りに普通に過ごしていていいのだろうか。
襲われたというのに。
「別の場所に移動したりしないの?」
このままここに居続けていいの?警戒しなくていいの?
リリーは心配そうなにふっと笑みを浮かべる。
しかし、その笑みはどこか寂しげに見える。
「私達はヴォルデモートに狙われているわ。だから、見つからない為に秘密の守人を使ったの」
「はい、知ってます」
「そう、ジェームズからでも聞いたのかしら?」
くすりっと笑うリリーには頷きも首を横に振ることもしなかった。
その沈黙をリリーは肯定ととる。
「ジェームズにとっても私にとっても大切な親友を秘密の守人にしたの。私達がここにいることは彼しか知らない。彼からしか聞けないはずなのよね」
「でも、昨日は!」
「そうね、この場所はもうヴォルデモートにばれていると思っていいでしょうね」
「それならどうして!!」
どうして対策をしない?
どうして逃げようとしない?
「信じているの」
にっこりと微笑むリリー。
その笑みには悲しくなる。
「信じているのよ、私もジェームズも。彼は裏切ったわけじゃないって、何か事情があったんだろうって」
「でも!!」
「聞いて」
の言葉を遮るリリー。
に向ける視線は真直ぐで迷いのないもの。
「それと思ったの。もう、逃げるのはやめよう、って」
「リリーさん」
「逃げて、逃げて、ずっと逃げ続けて、それで本当にいいのかしら」
「でも!逃げていればいつかは!」
「他の魔法使いがヴォルデモートを倒してくれる?そんな他力本願なのは嫌だわ」
リリーもジェームズもそういう性格だ。
怖いから、強大な力を持つヴォルデモートが怖いから逃げる。
逃げて隠れて、ヴォルデモートが倒されるのをじっと待っている、そんな性格ではない。
「ヴォルデモートも私もジェームズも魔法使いであることには変わりないわ。少し前にジェームズとも話し合ったのよ。もし、見つかった場合はまた逃げるのはもうやめましょうって」
「立ち向かうんですね」
「そうよ、逃げたくないもの」
強い光を見せる瞳。
恐怖も何もなく、信じる心と立ち向かう勇気。
勇気のグリフィンドールにいただけの事はある。
「リリーさん、知ってたんですか?その秘密の守人の親友が、裏切るかもしれない事を…」
襲撃を受けても慌てていない彼らの様子から、もしかしたらほんの少しでも予想していたのではないかと思う。
「可能性として考えてはいたわよ。卒業してからの彼はどこかそよそよしくて、噂で闇と繋がっているって聞いたこともあったの。それでも、最後の最後まで信じてみようって、ジェームズは言ったわ。私もそれに同意した。だって、学生時代一緒にいた彼はとても優しかったのよ」
その彼が裏切ったなど信じられない。
だから、まだ彼を信じる。
学生時代、仲良く勉強したり怒られたり遊んだりした事は真実なのだから…。
「だから、私達はこの場を動かない。いつかは逃げずに立ち向かう時が来るもの、逃げるのはもう懲り懲りだわ」
「リリーさん」
きっぱりと言い切っるリリー。
なんて強いんだろう。
恐れず立ち向かう勇気。
親友を最後まで信じきる勇気。
「それより、?」
さっきとは雰囲気の変わった笑みを浮かべるリリー。
その笑みにぎくっとなる。
なんとなく冷や汗が流れてくるような気がする。
「な、ナンデショウカ?」
「私は、丁寧語は駄目って言ったわよね?」
「は、はい、確かに言いました」
「あら?言ってる側から丁寧語よ?駄目じゃない」
「ス、スミマセ…」
「〜?」
(こ、怖いよ、リリーさん!)
「罰として、今夜ハリーをお願いね」
「…へ?」
(ハリーをお願いって?)
「今夜、ハリーと一緒に寝てね。大丈夫よ、寝付けば静かなものよ」
「ハリーと一緒に?」
「私もたまにはジェームズとゆっくり二人っきりになりたいのよ」
「りょ、了解しました。是非、引き受けさせていただきます」
は断れなかった。
否、断ることなどできない、不可能だ。
(でも、ハリーと一緒に寝るだなんて、ヴォルさんがさぞかし不機嫌になるだろうな)
まさにの思うとおり、その晩ハリーと一緒に寝ることになったヴォルは不機嫌一直線だった。
その晩のの苦労はまた別の話。