予習復習勉強
ハーマイオニー=グレンジャーは努力型の秀才だと思う。
他の生徒が知っているかどうかは分らないが、夜遅くまで授業の予習をし、そして復習をする。
それはマグル出身の自分が本当に魔法使いになれるかという不安からくるものでもあり、魔法という未知のものへの探究心からでもある。
一部ではその優秀ぶりを妬む人たちもいるが、は彼女の努力を知っているからほほえましく思っていた。
「グレンジャー、眠いなら寝た方がいいよ?」
グリフィンドールの談話室。
もうそろそろ生徒達は部屋に戻って寝ている子が殆どだろう。
珍しく、部屋ではなく談話室で勉強していたハーマイオニーを見たは声をかける。
ハーマイオニーは羽ペンを握り締めながら、眠そうに船をこいでいたからだ。
「だ、大丈夫よ!これくらい!今日はここまで終わらせないとならないんだから!」
ハーマイオニーはふるふるっと目を覚ますように頭を振って、教科書と羊皮紙を睨みつける。
は苦笑しながらも止めない。
これがハーマイオニーの良さでもあるから。
邪魔をしないようにハーマイオニーの隣に腰をかける。
ことん
はテーブルにカップを置く。
「眠気覚ましにどう?グレンジャー。まだやるなら少し休憩したら?」
カップの中には紅茶。
少し甘い匂いがする。
ハーマイオニーは驚いたように顔を上げる。
「…」
「もしかして、談話室にグレンジャーがいるんじゃないかと思ってね。紅茶持ってきたんだけど…紅茶嫌い?」
「あ、そんなことないわ!」
ハーマイオニーはぶんぶんっと勢いよく首を横に振る。
ふっと息をついて、羽ペンを置いてカップに口をつける。
勿論は自分のカップも持っている。
くすくすっと笑いながら自分もカップに口をつける。
頑張り者のハーマイオニーの手助けをしたいとは思うが、自分は魔法界のことに詳しくない。
あえて知っているものと言えば、ヴォルに教えてもらった高く売りさばける貴重な薬草の数々。
そして、ノクターン横丁に売っている闇の魔法に関するもの。
「ありがとう、」
ハーマイオニーはふっと笑みをこぼして、カップを置いてすぐに勉強にとりかかった。
休憩も本当に一息だけだ。
「グレンジャーは頑張りすぎ。もうちょっと力抜いてもいいんじゃない?」
思わずは苦笑してしまう。
「それでも、私にはこれしか取り得がないもの!」
「そんなことないよ、グレンジャーにはグレンジャーのいいところがある……あれ?」
はハーマイオニーの見ている教科書をちらっと見て、不思議に思った。
並ぶ文字は相変わらず英語なのだが、それはともかく。
「グレンジャー、それってホグワーツの教科書じゃないよね?」
内容が魔法の授業の内容ではなかった。
英語で書かれていても、一応は理解はできる。
これも「時の代行者」となった時に得た知識からかもしれないのだが…。
「ええ、これはマグルの学校で習うものよ。だってちゃんと覚えておかないとマグルの友達と話す時困るもの」
「グレンジャー、そこまでしなくても…」
「だって」
ハーマイオニーはことんっと羽ペンを置く。
きっとがむしゃらに勉強をしていないと不安なのだろう。
「無理しないで。無理して体を壊したりしたら大変だよ?」
「分ってるわ、分ってるのよ。マグルの勉強も全て理解しようだなんて思ってない。教科書だけじゃ理解できないところがあるもの」
どうやらハーマイオニーは同じところを何度も何度も読み返していたようだ。
「パパとママを見てると、やっぱりマグルと上手くやっていくためにはマグルの学校で習うことを知っておいた方がいいと思って」
「例えば?」
「基礎的な国語力と、歴史、そして計算はできないと駄目だと思うの」
「そうだね」
「国語はいいのよ、本を読むのが好きだから理解はしやすいわ。歴史は覚えればいいだけ。でも!計算関係だけは駄目なの!ホグワーツでは教えてくれる人もいないし」
ハーマイオニーはふぅとため息をつく。
はちらっとハーマイオニーの教科書を見て苦笑する。
「でもね、グレンジャー。マグルの中で過ごす為に、別に”一次関数”は必要ないと思うよ?」
「え?」
は教科書を指す。
「日常生活で使う計算はせいぜい、足し算、引き算、掛け算、割り算くらいだね。一次関数は化学や物理の実験結果で「比例」になるものの計算で使う程度でその手の専門に行くつもりがないなら別に覚える必要はないと……」
「!!」
「え?な、何?」
突然言葉を遮られて驚く。
ハーマイオニーはに詰め寄るように近づく。
「あの、グレンジャー?」
がしっと肩を掴まれる。
「分るのね!」
「え?」
「はこの問題が分るのね!」
「あ、うん、まぁ…」
(一次関数くらいなら小学生の問題レベルだし…、一応これでも大学生だし)
「教えて!」
「あ、でもグレンジャー、別にこれは覚える必要は…」
「だって、分らないままなのは気になるもの!」
「いや、でもね」
「これだけでいいからお願い、」
押さえきれない探究心からか、ハーマイオニーの目は真剣である。
別に教えたからって何が変わるわけでもない。
はため息をつく。
「いいけど、交換条件」
ぴしっと人差し指をたてる。
「グレンジャーはこれ以上無理しないこと!眠い時は寝ること!」
勉強熱心なのはいい。
けれど熱心すぎるのが心配なのだ。
「分ったわ。これからは無理して起きてないでちゃんと寝るわ」
「そうそう、眠い時に無理して勉強しても頭に入らないからね。少し寝てからやった方が効率はいいし」
「…え?そうのなの?」
「そうだよ。無理するとあとで反動がくるからね。きちっと休憩時間をとるか、睡眠をとるかしないと駄目だよ?」
「わかったわ」
真面目な表情で頷くハーマイオニー。
は満足そうな笑みを浮かべる。
一生懸命なのはいいことだ。
それでも、勉強というのは無理するまでしなくていいこと。
はそう思っている。
学校でやる勉強よりも大切なことは沢山あるのだから…、勉強ばかりでそれを逃してしまうのはハーマイオニーのためにはならない。
「ここはね…」
は仕方ないと思いながらもハーマイオニーにできるだけわかりやすく教える。
それは簡単な比例の問題。
真剣に聞くハーマイオニーを、本当にすごいと思っただった。