隠された小さな思い出
セブルスの部屋では退屈だった。
思ったよりも広いし部屋数のあるセブルスの部屋の一つを借りては現在居候中である。
居候10日目、ヴォルが部屋に遊びに来てくれたが、やはりつまらないものはつまらない。
その辺りにあるセブルスの本は、以前怪我した時に分かるものは読んでしまった。
「ヴォルさ〜ん。つまんないよ〜」
「自業自得だ」
「なんで?私、何も悪いことしてないのに」
「十分してるだろ?」
「どこが…?」
「ダンブルドアやセブルスに心配かけているだろうが」
「二人とも心配性なだけだよ」
は自分のしたことにあまり自覚がない。
自分のことをまわりに知られてはならないと知っていながらも目立ちすぎている。
その上、クィレルとの接触になんの警戒も持たない。
見てる側からすればかなりのヒヤヒヤものだろう…。
「よしっ!」
は立ち上がる。
そして、すたすたとこの部屋を出て行こうとする。
「おい、。どこにいくんだ?」
「どこって、つまらないからちょっと散策しに」
「…お前、全く反省はなしか」
「だって、今なら授業中だから校内歩いても大丈夫だろうし。何より退屈は精神的によくないよ!うん!ほら、ヴォルさんも一緒に行こうよ」
ヴォルの方に手を伸ばす。
仕方ないな、と思いながらも大人しくの腕の中におさまるヴォルだったりする。
1人で行かせようものなら、それこそ心配だからだ。
楽しそうなの腕の中で深いため息をつくヴォルなのであった。
*
は6階の廊下にいた。
周りはしんっと静まり返っている。
コンコンっと壁を叩いて回る。
コンコン、コツコツ
ある一箇所ではぴたりっと止まる。
そこだけ妙に叩いた時の音が響くのだ。
「やっぱ、ここ何かあるな」
じっとその壁を睨む。
ここホグワーツには知られていない秘密の部屋が結構あるようだ。
スリザリンの秘密の部屋とか、それこそダンブルドアも知らないのような部屋が。
「う〜〜ん」
ぺたりっと手を壁につける。
どこかに何か仕掛けがあるはずなのだが、それが何か分からない。
「諦めたらどうだ?」
「それは絶対駄目。ヴォルさん何か知らない?」
「知るか」
むぅっと顔を顰める。
と同時に壁についていた手に力が入る。
がこんっ
「へ…?」
丁度が手をついていた壁の一部分がへこみ、扉ほどの大きさの壁がぐるんっと回転する。
その回転する壁に巻き込まれたは、壁の向こう側へと倒れこむ。
「わっ、とと…」
倒れそうになりながらもなんとかバランスを取って、中に入る。
後ろではがこんっと音をたてて壁が閉まった。
そこは薄暗い部屋。
あるのは一つの白い布が張られた壁と、その両隣にある小さな水晶球。
はきょろきょろと見回す。
とりあえず、気になる白い布の壁に向かう。
「何の部屋なんだろ、ここ」
じっと白い布を見つめるが、何の変哲もない布に見える。
怪しいのはその両隣にある水晶球か。
まず右の水晶球を見ようとしたにふと目に入る文字。
白い布の下のほうに何か文字が書いてあるようだ。
「…えっと」
読もうとしてその文字を見るだったが…。
「何語?」
全くもって理解不能である。
英語ではない、かといって勿論日本語でもない。
フランス語やドイツ語なんか全然分からないが、英語と同じようにアルファベットを使うはずだ。
これはアルファベットを全く使っていない。
「ルーン文字だな」
「ヴォルさん分かるの?」
「ああ、一応学生時代に習っていたからな」
その文字を見つめ、ぶつぶつ言い始めるヴォル。
には何を言っているのかさっぱり分からない。
ヴォルはルーン語の発音で読んでいるからだ。
「ねぇねぇ、ヴォルさん。訳してよ」
「あ、ああ、別にいいが、くだらないぞ?」
「くだらなくてもいいから!」
(だって、気になるし!)
「『この部屋は過去の思い出を閉じ込める場所。過去、ここに訪れた者の言葉を今に伝えるもの、唱えよ……ル・ヴァイ・アード』」
ぽぅ
ヴォルがそう言った瞬間に両隣の水晶球が光りだす。
光は白い布を照らし出し、その布がスクリーンとなって、何かが映し出される。
はワクワクしながら何が写るのか楽しみに待った。
フッと浮かび上がるように映ったのは、4人の少年だった。
その彼らの特徴を見て、まさか…と思う。
彼からはあまりにもの知っている人たちの特徴と同じだった。
は彼らにはまだ会っていない為、はっきりとは分からないが、恐らく彼らは…。
は少し悲しそうな表情になる。
ヴォルはその表情の変化に気付くが何も言わなかった。
「はじめまして。何処の誰とも知らぬ、ホグワーツの生徒よ」
「もし、知ってるヤツだったらどうするんだ?」
「シリウスにしては鋭い突っ込みだねぇ。まぁ大丈夫だよ。ここはそう簡単に見つからないだろうからさ」
「俺にしてはってどういうことだよ、ジェームズ」
黒い癖だらけの髪、ハリーによく似た顔立ち。
丸い眼鏡を掛けてグリフィンドールの制服を来た、ジェームズ=ポッター。
黒いサラサラの髪に同色の瞳とかなり整った顔立ち。
背も彼らの中では一番高く、同じくグリフィンドールの制服のシリウス=ブラック。
「無駄話はしないでね。ここで見つかったら大変な事になるよ?」
「そうだよ。リーマスの言うとおりだよ?」
「まだ無駄な話するつもりなら……僕が直々に黙らせてあげてもいいけどね」
「リ、リーマス?」
鳶色のサラッとした髪に、青みがかった瞳のおっとりとした少年。
しかしその背後は微妙に黒く、同じくグリフィンドールの制服のリーマス=ルーピン。
淡い金髪に、青い瞳の小柄な少年。
リーマスの黒さにすこし怯えてはいるが、同じくグリフィンドールの制服のピーター=ペティグリュー。
「そ、そうだな。時間も勿体無いしな。なぁ、シリウス?」
「ああ、そうだな、ジェームズ」
「じゃあ、気を取り直して…」
冷や汗をかいているジェームズとシリウスににっこりと微笑むリーマス。
こほんっと一つセキをして、改めなおす。
「はじめまして、未来のホグワーツ生。僕達と同じグリフィンドール生だと嬉しいな。あ、僕はリーマス=ルーピン」
「おい!リーマス!何でお前からなんだよ?!」
「五月蝿いよ、ヘタレ犬」
「ヘタっ?!!」
「じゃあ、次は僕だね。僕はジェームズ=ポッター、将来の夢はリリーと素敵に過ごすことさ!それが叶っているか君が確かめてくれ」
その言葉には泣きそうになる。
明るく笑うジェームズは今がとても楽しそうだと言っている表情である。
「次は俺な!!俺はシリ……げふっ!!」
「次はピーターだよ、ヘタレは最後」
話そうとしたシリウスを無理やり鉄拳と笑顔で黙らせ、ピーターに促すリーマス。
「あ、僕はピーター=ペティグリュー。将来は、魔法省に務めたいんだ」
「へぇ、ピーターは魔法省に務めたいのか?いいんじゃないか?合うと思うよ、僕は」
「ありがとう。ジェームズ」
ニコニコピーターに微笑むジェームズ。
照れながらもお礼を言うピーター。
「なにやってるの?シリウス、はやく自己紹介してよね」
「なっ!!リーマス!お前が俺を無視し…!」
「何か言った?」
にっこりととても爽やかな笑顔を見せるリーマスにたじろぐシリウス。
腹黒大魔王降臨である。
シリウスはやはりそれに逆らえない。
「……お、俺はシリウス=ブラックだ」
「またの名をヘタレ犬という」
「ジェームズ!お前まで!!」
「いいだろ、本当のことだし」
「そうだよ、シリウス。本当のこと言われて怒らないでよね」
「お前ら、本当に俺のこと親友だと思ってるのか?」
今のシリウスが犬だったら、きっと耳がヘタレていただろう。
顔立ちはこの4人の中で一番カッコいいというのに。
「勿論さ、シリウス!」
「親友だからこそ、本当のことを教えてあげているんだよ?僕達のこの優しさが分からないの?」
「分かるか!!」
そんな彼らをオロオロしながら見ているピーター。
きっと彼らはいつもこんな調子だったのだろう。
とても仲の良い友人たちの姿にしか見えない。
「ね、ねぇ、騒いでると見つかるよ」
「あ、ピーターの言う通りだね。無駄な時間が過ぎてしまうよ」
「駄目じゃないか、シリウス〜。騒いでいたら迷惑だよ」
「俺かよ?!!」
ぼぐっ
「言ってる側から五月蝿いよ、バカ犬」
にこりっと満面の笑みを浮かべたリーマスの容赦ない肘鉄がシリウスの腹にめり込む。
かなり容赦なかったようで、シリウスは完全に沈黙した。
「貴様ら!こんな所で何をしている?!!」
別の声が響く。
その声にぎょっとしたのがピーター。
落ち着いた様子で声の主を見たのがジェームズとリーマス。
シリウスは、腹を押さえたまましゃがみ込んでいる。
「やぁ、セブルスじゃないか」
「やぁ、じゃないだろうが!こんなところで何をしている?!」
ずかずかっと部屋の中に入ってくる1人の少年。
黒い髪に黒い瞳。
不機嫌そうな表情は今と変わらない。
「おやおや、君の口から「やぁ」なんて言葉が出るとは、僕は吃驚だよ」
「ポッター、貴様!」
「やだなぁ、セブルス。ちゃんと名前で呼んで欲しいな、ジェームズだよ」
「貴様などを何故ファーストネームで呼ばなければならない?」
「だって、僕達の仲じゃないか」
「どんな仲だ!!」
怒りくるったセブルスとは対象に楽しそうに受け答えるジェームズ。
セブルスの眉間のしわが一本増える。
どうやら、この頃から苦労人らしい。
「何故、違う寮の僕が貴様達を呼びに行かなければならないんだ!!さぁ、早く来い!今は授業中だぞ!」
「大変だね〜。セブルスも」
「誰のせいだ!誰の!!」
そういいながらも部屋を出て行こうとするセブルスに大人しくついていくジェームズ達。
シリウスは名残惜しそうにちらっとこちらを見ていたが…。
がこんっと音をたてて、映像が暗い部屋のみを映す。
そこで、両隣の水晶球は徐々に光を失っていく。
「今のは……」
呟く。
「過去の映像だな。随分と中途半端だったが、おそらく先ほどのルーン語に反応して映るように設定されていたんだろうな」
「過去、の映像」
ジェームズたち4人。
とても仲の良さそうだった彼ら。
「そのうち、そうだね、3年くらい後くらいには、ハリーに見せてやりたいな」
「ハリー=ポッターにか?」
「うん。だって、ハリーのお父さんのジェームズさんが映っていたから」
「今は駄目なのか?」
今、知らせてあげれば恐らくハリーは凄く喜ぶだろう。
けれど、ハリーがシリウス、リーマス、ピーターのことを知るのは3年生の時のこと。
それまでは内緒にしておいた方がいいだろう。
「楽しみは、後に取っておいた方が嬉しさも増すでしょ?」
(ハリーには悪いけどね。後に知ることだから、今はまだ、彼らの存在を知られるわけにはいかない。しかし、それにしても…)
「若い頃の教授の姿なんて貴重だよね〜」
「ほぉ、若い頃の我輩がそんなに貴重か…」
聞こえないはずの声が聞こえてきてぴしりっと体が固まる。
何故この声がこの場で聞こえるのだろう。
「それで、大人しく部屋にいるはずの貴様がどうしてここにいるのか聞きたいのだが?」
(……こ、この口調と声は)
おそるおそる後ろを振り向けば、やはりというか眉間にシワを寄せたセブルスが立っていた。
この部屋は隠し部屋なのだが、先ほどの映像から考えればセブルスがこの部屋の存在を知っているという事は当然のこと。
「き、教授?どうしてここに?」
「今の時間我輩は授業がないから部屋に戻ってみれば、がいない。ここに来てみればこの部屋が開かれた気配がする」
そして、部屋の中に入ってみればがちょうど映像を見終わった頃だったという訳だ。
ちなみにこの部屋、中に誰かが入っていると入り口の外側の壁が他と少し違う色になっていることが分かる。
最も、ここに部屋の存在があるだろうと思わなければ気付かない程度の違いなのだが。
「貴様は、自分の立場が全然分かっていないようだな。今度は首輪でもつけてやろうか?」
「え、遠慮します」
「さっさと戻るぞ」
「ハイ…」
部屋をでていことする教授に素直についていく。
自分の方が悪いのは承知しているので強くは出れない。
についていこうとしたヴォルだが、ぴたりっと足を止める。
ちらっと白いスクリーンだった布を見る。
あの過去の映像を見ていたは、ずっと苦しそうで悲しそうだった。
ヴォルはあの中の4人の中で二人だけ知っている。
それは、ジェームズ=ポッターとピーター=ペティグリュー。
ヴォルデモートに殺されたジェームズと、彼を裏切ってヴォルデモートに組したピーター。
後の二人は会ったことがないので知らないが…。
「俺は、お前らを絶対好きにはなれないだろうな」
聞こえないような声でぽつりと呟いた。
あのの感じから、いずれは出会うであろう彼ら。
しかし、にあんな表情をさせるような彼らをヴォルはきっと好きにはなれないだろうと思っていた。
「ヴォルさーん?何やってるの?行くよ」
の呼ぶ声が聞こえる。
ヴォルはの元に返事はせずに向かった。
そして、この後、がセブルスにこってり叱られたのは言うまでもないだろう。