クィディッチをやろう
は逃げ回っていた。
何からと言われれば、双子達の追撃からだ。
「達」と複数形なのは、双子にプラスハリーが加わったりウッドが加わったりするからだ。
ハリーの一番最初のクィディッチの練習の時、クィレルが呪いか何かをかけたらしいブラッジャーの暴走を食い止めてしまったのが原因だ。
そもそもは魔力がないので箒で飛ぶことがでないのだ。
しかし、あの時は怪しまれずに空を飛び交っているブラッジャーを止める為に、力を使って箒で飛ぶしかないと思った。
「馬鹿だな、お前」
某黒猫がそんな言葉を言っていた。
それも盛大に呆れた様子でである。
にしてみれば
「こうなることを知ってたならあの時止めてくれたっていいじゃない、ヴォルさん〜」
ということである。
しかし某黒猫…ヴォルは、深いため息をつく。
「俺が止めた所でお前は止まったか?」
ちらっとを見るヴォル。
としてはそこでぐっと黙らざるを得ない。
ヴォルに相談もなにもせず…といってもそんな時間はなかったが…勢いのまま箒で飛んだのはだ。
分かってはいるのである。
自業自得だということは。
「今日はいいクィディッチ日和だね、!」
「こんな日こそクィディッチの練習をすべきだよ!」
「そうさ、のその箒の腕ならば、こんな日は飛びたくなるだろう?」
「その腕が疼く!箒に乗りたいと、クィディッチをしたいと疼かないかい?」
「一度やればクィディッチはやみつきになる!」
「一度飛べばやめられなくなるさ!」
「さぁ、今日こそ練習に参加しよう!」
「そして、一緒に優勝を目指そう!」
「「!!」」
もう、嫌だ。
頭を抱える。
毎日のようにウィーズリーの双子はこの調子である。
授業がある日はまだいい。
「もう!いい加減にしてください!僕には無理です!僕の飛行訓練の成績がどれだけ酷いものか分かっていっているんですか?!」
「何を言ってるんだい?」
「『能ある鷹は爪を隠す』と言うだろう?」
「別に隠してなんかいません!そもそもなんで日本のことわざなんて知っているんですか!」
「それは勿論!」
「のことをもっと理解する為に調べたのさ!」
「そんなの調べなくていいです…」
思いっきり深いため息をつく。
よりによって今日は授業がない日だ。
双子の追撃をかわしてどうやって一日を終えるかが課題になる。
ちなみにここはグリフィンドールの談話室ではない。
達の部屋…つまりは、ハリー、ロン、ネビルの部屋なのだ。
は期待に満ちた目でみてくる双子にチラッと目をやってから窓の方に向かう。
まともな方法では逃げられないと判断した為だ。
ばたんっと窓を開ける。
「ウィーズリー先輩方、すみませんがお休みの日くらいはゆっくりしたいんです、僕」
「「?」」
「失礼します」
ぺこりっと軽く頭を下げてから、はそのままひょいっと窓から飛び降りた。
驚いたのは双子の方。
「「?!!」」
慌てて窓に近寄るが、は見事に綺麗に着地したらしく、走っていくのが見えた。
この部屋は決して低い場所にあるわけではない。
普通のビルの3階くらいの高さだ。
飛び降りて無事でいられる高さではない。
魔法を使えば別だろうが…。
の場合は力を使ったのだが。
「さすが、だね」
「これはますます逃がすわけにはいかないよね」
「そう!まずはクィディッチのメンバーに!」
「そして、僕らの悪戯仲間のメンバーに!」
「僕らにとって諦めなど存在しない!」
「そうさ、相棒!決めた事は必ずやり遂げる!」
「「どんな手段を使っても!!」」
そうやって余計意気込んだ双子を見たのは、ヴォルだけだった。
双子に存在を悟られないように、深い深いため息をつくヴォル。
とりあえず、この件に関してを助ける気は、今のところヴォルにはないらしい。
*
その肝心のといえば、ホグワーツの地下の方に向かっていた。
あの双子から逃げる為には、セブルスの近くにいるか、もしくはスリザリンの方にいくかが一番いい。
盲点をついてハッフルパフやレイブンクローでもいいが、その2つは双子には情報網があるらしく難しい所だ。
「はぁ〜〜。もう、なんでそんなに拘るかな」
は何故双子が、そこまで自分に拘るのか分からない。
できれば、穏便に静かに暮らしたいと思っている。
しかし、双子はかなりしつこい。
とりあえず、セブルスにでもあの双子を押し付ければ今日は無事に過ごせる…かもしれない。
その為にてくてくと歩きながらセブルスの部屋に向かうだったが…。
「いた!!」
「!!」
後方からの声にばっと振り向いてみれば、笑顔でこちらに向かってくる双子。
(な、なんで?!)
混乱しながらもは慌てて走り出す。
ちらっと双子の方を見れば、ジョージの方が羊皮紙をまるめたようなものを持っている。
(あ、そうか!!『忍びの地図』!しまった、まだこの時期はあの双子が持っているんだった!今までスリザリンの方にいれば比較的見つかりにくいと思っていたのに!じゃあ、今まではまだ『忍びの地図』使ってなかったってことか)
そう判断してももう遅い。
逃げる、追いかける双子。
身長が違うのだから走るスピードも違う。
の身長は双子よりも低い、体力もの方がないだろう。
「!なんで逃げるんだい?!」
「一緒にクィディッチをやろう!」
「嫌です!何度も言ってますが、僕には無理です!追いかけてこないで下さいよ!!」
「が逃げるからだよ?!」
「逃げらればどうあっても追いかけたくなるのが人間ってものさ!」
「ウィーズリー先輩方が追いかけなければ僕も逃げませんって!!」
流石に叫びながら走るとの息もきれてくる。
しかし、双子は普段の行いからか平気そうだ。
不公平だと思ってしまう。
それでも走り続ける。
「い、いいかげんっ!諦めて、下さい!」
流石に言葉も絶え絶えになってくる。
しかし対する双子はまだまだ全然平気なようだ。
「諦めるって何をだい?」
「僕らの中で諦めの文字は存在しないさ!」
「諦めるとしたら…」
「そう、それは僕達の標的である…」
「「の方さ!」」
(私は標的か?!!)
そう叫びたかっただったが、さすがに体力的に無理なのでやめておく。
そろそろやばいかと思ったその時、セブルスを発見した。
「「げっ、スネイプ」」
追いかけてくる双子が顔を顰めただろう事は分かったが、はそのままセブルスの方に向かって走る。
と双子に気付いたセブルスは顔を顰め、いつも通り眉間のシワを2本ほど増やす。
は、セブルスの表情など全然きにせず、セブルスを盾にするように後ろに回り込む。
「、何をっ!」
「すみませんが、スネイプ教授。彼らに対する盾になってもらいます」
「盾だと?それは一体…」
「ウィーズリー先輩方!教授に減点されたくなかったら今日は諦めてください!」
セブルスの言葉を遮り、は双子にびしっと言う。
対峙するセブルス&と双子。
「甘いね、」
「僕らが減点を恐れるとでも?」
「減点を恐れていたら悪戯なんてできないだろう?」
「そうさ!減点されるというスリリングを楽しみながら悪戯することこそ、悪戯の真意!」
「それはつまり、グリフィンドールは減点されてもいいってことですか?」
「そうじゃないさ!」
「減点されるかもしれないというスリルを感じながらも!」
「減点されないように悪戯をする!」
「証拠を残さないように悪戯をする!!」
「「それが何よりも面白いのさ!!」」
セブルスの眉間のシワがいっそう深くなる。
しかし双子はに視線を向けているため気付いていないのか、それとも気付いていてやっているのか。
「でも、今の状況じゃあ、教授に何かしたとしても減点は免れませんよ。ですから、今日は諦めてください」
「そう言われて僕らが諦めると思うのかい?」
「はまだまだ甘いね」
「何言ってるんですか、グリフィンドール生を見かけた瞬間、減点するためにあら探しをする教授のことです、絶対何がなんでも減点しますよ?!」
「……」
「それが甘いって言うんだよ!」
「スネイプの減点が怖くて何ができるのさ!」
「こんな状況でもちゃんと逃れる術を!」
「この僕達が知らないとでも?!」
「……ウィーズリー」
セブルスの表情が引きつりだす。
しかし、と双子はセブルスの声など気にせずさらに対話を続ける。
「この状況から逃れるなんて、どうやってですか?」
「勿論目くらましにクソ爆弾を!」
「スネイプに向かって投げるのさ!」
「それじゃああまり意味ないですよ。それより教授の弱点でも掴んで口封じておいたほうが今後の為にもなると思いますよ?」
「貴様ら…」
「スネイプの弱点」
「確かにそれは知れば使えるけど、それより、!」
「な、なんですか?」
「だからこそ僕達にはのような発想をする仲間が必要なんだよ!」
「そう、大胆で奇抜なのような発想持ち主の仲間が!」
「それって褒めているんですか……?」
「「勿論だとも!!」」
声をハモらせて肯定する双子。
「ウィーズリー!!!」
セブルスの怒り爆発。
驚いて逃げようとする双子だが、その双子に容赦なく…
「ウィーズリー!グリフィンドール10点減点!」
セブルスからの減点が下る。
しかし双子は減点を言われたのに、楽しそうに逃げていった。
(一体、何が楽しいんだろ?あの2人の感覚って良く分からないや)
首を傾げる。
だが、はその場を動かない。
「教授、教授、息が上がってますよ。ちょっと落ちついてください」
双子を怒鳴ったからか、息がちょっぴり荒めのセブルス。
はすぐ横でにこにこ笑みを浮かべている。
「っ?!!」
「はい、何ですか?」
「貴様は!いや、グリフィンドール……」
「10点減点ですか?」
は笑顔で答える。
セブルスはむっとそこで黙る。
そう言われて、言われたとおりに減点できないのがセブルスの性格だ。
「いや、1点減点だ」
「1点ですか?ウィーズリー先輩方と比べると随分少ないですけど?いいんですか?」
「構わん。ウィーズリーは日頃の行動も含めての減点数だ」
「成る程。ま、それより助かりましたよ、教授。ありがとうございました」
はぺこりっと頭を下げる。
減点はあったとしても、とりあえずはあの双子から逃げられたのだ。
『忍びの地図』がある限り、これで追いかけられる心配が消えたわけではない。
「何の礼だ?」
「何のって、一応教授のおかげであの二人の追撃から逃れられましたし」
「我輩はなにもしてない」
「いえ、それでも僕は助かりましたので、そのお礼です。それでは、失礼しますね」
この先、どうやって逃げ切るかを考えなければならない。
いつまでもセブルスの側にいるわけにはいかないだろう。
大して親しくもなく、スリザリン生でもないのだから…。
「!」
「?…何でしょう?」
立ち去ろうとしたを呼び止めるセブルス。
はきょとんっとした表情だ。
それはそうだろう、呼び止められるとは全く思っていなかったのだから。
「いや、ウィーズリー達を相手にすればするだけやつらが喜ぶだけだ」
「教授?」
「相手にしないのが一番だが、奴らに会いたくないならスリザリン寮の裏手にある小さな石像の所にでも行け」
「え?」
「そこなら誰も行かないだろうし、奴らも来ないだろうからな」
「あの?」
はセブルスの言葉に目をぱちぱちさせるだけ。
セブルスは言いたい事は言ったとばかりにばさっとローブを翻して行ってしまった。
(何で、あんなことを教えてくれたんだろ?親切心…なわけないし、同情とかかな?)
実はその場所、学生時代セブルスがジェームズ達の悪戯から逃れて静かに読書をしたい時に使っていた場所だったりする。
何故か見つかりにくい場所で『忍びの地図』にものっていないらしく、卒業するまで見つかる事はなかったらしい。
そんなことを知らないだが、とりあえずその場所に行ってみようかと思った。
その後は、セブルスに教えてもらった場所で一人でゆったりと読書をしたりしていた。
そして双子はというと…。
「「やっぱり、で遊ぶのは最高だね!」」
クィディッチ&悪戯仲間への勧誘の成否はともかく、自身を追いかけて言葉のやりあいをするのが楽しかったらしい。
もまともに相手をするから、双子が面白がって説得をやめないのである。
それに気付かない限り、この鬼ごっこは永遠に続くだろう。