SWEET BOX 9
リーマスに抱きしめられるのは慣れてきた矢先、キスをされた。
別に深い意味があるわけじゃないかもしれない。
リーマスは女の子にモテるので、あれくらいは挨拶くらいのつもりかもしれない。
ずき…
そう考えるとすごく悲しくて寂しくて、嫌な気持ちになる。
ふぅっと息をつく。
そっと自分の部屋の窓から外を見てみれば、隣の家の様子が見える。
リーマスはの家の隣に越してきた。
の母カレンとリーマスの母の強い希望でそうなったのだが…。
おそらくカレンはリーマスに噛んでもらおうなどといまだに考えているからだろうし、リーマスの母親はカレンに人狼対抗手段を学ぶ為に。
二人とも嬉々としていた。
「苦労するのはお父さんと、リーマスのお父さんだろうな」
リーマスの父親はどうか知らないが、意外との父セイスは精神的に強い。
いざという時はカレンがどんなに頼んでも曲げない時がある。
その分、普段は悲しいほど哀れだ。
ちらっと隣の庭にリーマスの姿が見えた。
どこかに出かけるような格好をしている。
(もしかして、誰かとデートなのかな?リーマス、すごくモテるし)
そう考えてすごく不安になる。
(別に私はリーマスにとって友達なだけ…なんだよね)
そう考えながらもは自分の表情がすごく泣きそうなものになっていることに気付かない。
やっぱり…
「私、リーマスのことが好き、なのかな?」
認めてしまうのが怖い。
リーマスは人気者で沢山の人に慕われていて、ファンも沢山いる。
それに比べては平凡で取り得もない。
この想いを認めてしまえば、今の関係が崩れてしまいそうで、怖い。
「!」
名前を呼ばれびくっとなる。
きょとんっとしてみれば、庭からリーマスが手を振っている。
呼びかけたのはリーマスのようだ。
「、一緒に映画にいかないかい?」
リーマスはひらひらっと二枚のチケットを振る。
その誘いにの心は軽くなる。
先程の泣きそうな表情などどこかにいき、笑顔になる。
「うん!行く!ちょっと待ってて!」
ばたばたと慌てて準備をする。
小さなバックを1つと軽く髪をとかして降りていく。
家の玄関のドアを開くと、家の前にリーマスが待っていた。
「お待たせ!」
「早かったね。じゃ、行こうか?」
「うん!」
リーマスは何のためらいも見せずにの手を握る。
それに少し顔を赤くしただが、振りほどこうとはしない。
二人はそのまま手をつなぎ映画館に向かっていった。
*
映画は今そこそこ人気のあるものだが、もうすぐ公開も終わるということで比較的空いていた。
まだ上映まで時間があるようなので、とりあえず飲み物と食べ物を買うことにする。
映画館といえば。
「ポップコーンだよね!」
「そう?僕はアイスの方がいいなぁ」
「でも、リーマス、キャラメルポップコーンってのがあってね、美味しいんだよ?」
「キャラメル?それって甘いポップコーン?」
「うん、そう」
普通のポップコーンは塩味だ。
だがキャラメルポップコーンはキャラメルシロップがついていて甘いポップコーン。
も数回しか食べたことがない。
なにしろ、キャラメルポップコーンは映画館や遊園地でしか売ってないからだ。
「じゃあ、それにしようか?」
「リーマスもきっと美味しいって言うと思うよ」
はお店でキャラメルポップコーンを買う。
大き目のケースにいっぱいのポップコーン。
先に1つつまんでみる。
「うん、甘くて美味しい」
「、ずるいよ一人で先に食べるなんて」
「だって、買ったのは私。私が先に食べる権利があるよ」
ぱくりっともう1つ。
リーマスは気にした様子はなく、同様ポップコーンを口の中に放り込む。
「あ、美味しい」
「でしょう?意外と合うよね、キャラメルとポップコーンの組み合わせってvポップコーン自体嫌いじゃないけど、キャラメル結構好きだからこういうのあると嬉しい」
にこっと笑顔になる。
その様子にくすくす笑い出すリーマス。
は突然笑い出したリーマスにきょとっとする。
「何?リーマス?」
「ううん。ただね、って甘いもの食べてる時ってほんと幸せそうな顔するなって思っただけ」
「そう?」
「そうだよ、自覚ない?すっごい可愛いよ」
「可愛っ?!」
かぁぁっと顔が赤くなる。
どうしてこういう言葉をさらっと言えるのだろうか?
口説き慣れているからだろうか?
そんなことが思い浮かんで少し胸が痛む。
それをごまかすようにはリーマスを睨む。
「可愛くなんかないよ!お世辞なんかいいよ!リーマス」
「お世辞じゃない、本当に可愛いよ、は。自覚ないところが更に可愛い」
「リーマスってば!」
機嫌よさそうににこにこしているリーマス。
対しては顔を真っ赤にしている。
「でも、ちょっとは自覚して欲しいんだけどね、僕としては」
「え、何?」
何を言われたか分からなかった。
でも、リーマスはもう一度言う気はないらしく苦笑してごまかしていた。
気になっただが特に突っ込まないことにする。
「そろそろ、映画が始まるよ?」
「う、うん」
「行こう?」
リーマスがの手を引っ張る。
握り締められた手から熱が伝わってくる。
手を握られるだけでもドキドキしてくる。
(リーマスは、なんかすっごく女の子の扱いとか慣れてそう。デートとかたくさんしたことあるのかな?)
またずきんっと痛む胸。
分かっている、なんでこんな風に思うのか。
つながれた手は離したくない。
向けられるリーマスの笑顔は自分だけのものがいい。
(私、リーマスが好き)
は泣きそうになるくらい、自分の気持ちを自覚した。
*
は映画の内容なんて何も頭に入ってなかった。
どんなものだったのか、恋愛ものか、冒険ものか。
面白かったかと聞かれて、曖昧に頷くしかできない。
帰り道でも繋がれた手を離されてしまうのが怖くて、想いを自覚したら失うのが怖くて、前のように言葉が出ない。
「?どうしたの?さっきから変だよ?」
「う、ううん。そんなことないよ!なんでもないって」
思いっきり首を横に振って笑顔を浮かべた…、つもりだった。
けれど、それはうまくいかなかったようでリーマスは心配そうに見てくる。
「映画、面白くなかった?」
「そ、そんなことないよ」
慌てて否定する。
リーマスを傷つけてしまうのは嫌だ。
嫌われるのは…、絶対に嫌だ。
「だって、。映画が終わってから変だよ?」
「そんなことないって、面白かったよ」
「じゃあ、内容覚えてる?」
ぎくりっとなる。
答えに詰まったにリーマスは悲しそうな表情になる。
何か言わなければならない。
リーマスにそんな表情をされるのは嫌なのに。
そう思うが言葉は出てこない。
「、悩みがあるなら言って?」
「なんでもないよ、リーマス」
ゆっくりと首を横に振る。
「そうは見えないけど…」
「本当になんでもないってば!!」
そう言ってはっとなる。
強く言い過ぎた。
リーマスは驚いたような表情と、そして悲しげな笑みを浮かべた。
すっと繋がれていた手が離される。
(嫌われた…?)
離されてしまった手。
ぬくもりを失ってしまった。
「ご、ごめん、なさい、私…」
泣きそうに顔を歪めたはなにか言おうと口を開くが出てくるのは言葉にならないものばかり。
どうしてこんなことになってしまったのだろう?
出かける時はとても楽しかったはずなのに。
こんなことならば気付かなければ良かった。
(気まずくなるくらいなら、リーマスが好きだって気付かなければよかった!)
「」
リーマスの声にはっとなり、気付けばリーマスに抱きしめられていた。
「リーマス?」
いつものようぎゅっとした抱きしめ方ではなく、そっと包み込むように抱きしめられる。
はリーマスの袖をぎゅっと握る。
離れたくない。
「、落ち着いて、ね?」
なだめるような声からリーマスは怒っていないことが分かった。
それにほっとする。
「何か言いたいことがあるんだよね?言ってごらん、」
優しそうに微笑むリーマス。
言って大丈夫なのだろうか。
リーマスに嫌われたりしないだろうか?
(リーマスは、私みたいな子に想われて嫌じゃないかな?想いを伝えるだけなら大丈夫かな?)
リーマスの袖を握る手に力を入れる。
「私、リーマスが…好き」
(お願い、嫌わないで。同じ想いを返してもらおうだなんて思ってない。だから、今の関係を壊さないで)
リーマスはの頬に触れ、そっと上を向かせる。
どことなく嬉しそうなリーマス。
反対に泣きそうな表情の。
「、もう一回言って?」
(もう一回?)
はリーマスを見上げる。
「私、リーマスが好きなの」
否定しないで。
受け入れるだけでいい。
今の関係を維持してくれるだけでもいいの。
(お願いだから嫌わないで)
「うん、僕もが好きだよ」
リーマスは嬉しそうな笑みを見せる。
その答えに一瞬きょとんっとなる。
「僕もが好きだよ」
ぎゅっとを抱きしめるリーマス。
慌てたのは。
(え?ええ?!!リーマスが、私を?!ちょっとまって!)
「リ、リ、リーマス?!!」
「休暇中じゃないとリリー達の邪魔が入るからね。よかった、休暇中にの気持ちが聞けて」
くすくすっと嬉しそうに笑うリーマス。
は抱きしめられて、リーマスの胸に顔をうずめている状態なのでリーマスの表情は見えないが、かなり楽しそうな笑みを浮かべていることだろうと思う。
「僕の日頃の行動が無駄にならなくてよかったよ、本当にね」
「日頃の行動って?」
不思議に思っただが、突然リーマスが少し体を離してのあごを持ち上げる。
されるがまま上を向いて何の抵抗もしない。
そのままリーマスの顔が近づいてきて、唇を重ねられても何の抵抗もしなかった。
ただ単に驚きのあまり事態についていけなかっただけなのだが。
唇を離したリーマスはぺろりっと自分の唇を舐める。
う〜ん、と少し考え…
「キャラメルの味かな?」
かなり嬉しそうである。
「一度目はキスじゃなかったけど唐辛子の100味ビーンズ、次はミニケーキの間接キスだね。それから…」
「リ、リーマス?!」
「チョコケーキでキスして舐めて、この間の飴でキスってとこだね」
にこっとリーマスは笑みを見せる。
たくらみ笑顔だこれは。
「実は、にちゃんと僕を意識してもらいたくてやってたんだ」
「なっ!」
「効果あったみたいでよかったよ」
どうやら確信犯だったようである。
誰かに入れ知恵されたのか、はたまた自分で考えたのか、リーマスの場合だと後者の可能性が高そうだが、過剰なスキンシップは計算のウチだったようだ。
かなりタチが悪い。
最も最初の段階でが嫌がっていれば、リーマスの行動もエスカレートしていかなかったのだろうが、無意識にリーマスに惹かれていたはリーマスの行動を拒否することはなかった。
「僕は人狼だから受け入れてもらえるかどうかすごく不安だったけど、その不安がなくなったらちょっと歯止めが利かなくなって、の気持ちも聞かないうちにキスしちゃったりしたけど、ごめんね?」
「ぅえ?い、いいよ!別に!」
申し訳なさそうに謝られるとそこで許してしまうところがの甘いところ。
リーマスにそんな表情をされてはは怒れない。
「これからはそんな心配もないけど」
「心配?」
「だって、の気持ちも聞けたし、僕は遠慮する必要ないよね?」
(遠慮って、あれで遠慮してたんだ、リーマス)
先行きがちょっと不安になる。
「好きだよ、。もう、君以外は考えられないくらい。だから…」
「だから?」
首を傾げる。
リーマスはにっこり笑みを浮かべる
「覚悟しててね」
(覚悟って、何の?)
疑問が解消されなかっただが、今後やっかいなものに好かれてしまったものだと分かるようになる。
がそれを自覚するのはもう少し後。
リーマスはが思っているよりも、心が狭いのだ。