SWEET BOX 6
「ねぇ、リーマス知らない?」
グリフィンドール談話室。
がジェームズに自分から話しかけるのはこれが始めてだったりする。
寡黙で大人しいと思われていた少女はどうやら甘いお菓子に目がないらしくリーマスとはかなり話が合う。
リーマスとはよく話をしているところを見る。
他の生徒達には相変わらずの態度のようなのだが。
「リーマスは今日はいないよ。お母さんのお見舞いとかって、毎月1回行ってるんだ」
「そっか、せっかくリーマスが前に食べたいって言ってたものを作ったんだけどな」
残念そうな顔をする。
甘いお菓子の話題でかなり気が合うとリーマス。
少し前にリーマスのファンにネチネチ言われたり、嫌がらせをされたりもしたが、それはリリーとセフィアの協力、そして最後に自身の脅しを加えたので大丈夫だろう。
余計な恨みを買うまいと、ジェームズやシリウスには未だに近づかないようにしているが…。
「作ったって何をだい?」
「うん、キャラメルチョコ」
「また、チョコかい?」
苦笑するジェームズ。
がリーマスに差し入れするものにはチョコレート関係が特に多い。
「チョコはチョコでもいろいろあるんだよ?今度は新作なの」
リーマスは甘いものの中でも特にチョコレートが好きなようなのだ。
なので、今回はキャラメルを絡めたチョコレートを作ってみた。
勿論カカオから作ったので全て手作りである。
味見もしたところかなりいい出来なので、すぐにでもリーマスに食べてもらいたいと思っていたのだ。
「とりあえず、少し探してみるね。まだそのあたりにいるかもしれないから」
「もう、いないと思うよ?」
「ん、でも駄目モトで探してみる、ありがとう、ジェームズ」
ひらひらと手を振って談話室を出て行く。
大事そうにキャラメルチョコを抱えながら。
ジェームズは複雑そうな表情でが出て行った方を見ていた。
今、談話室にはジェームズ1人。
もう、日が暮れてそろそろ部屋に戻るべき時間帯だ。
そんな時間にリーマスは寮の中にはいない。
「リーマス。やっぱり、君は彼女に隠し続けるつもりかい?」
どこか悲しそうな声でそう呟くジェームズだった。
リーマスが今いない理由をジェームズは知っている。
*
キャラメルチョコの包みを抱えながらホグワーツの中を歩き回る。
日は完全に沈んでいて辺りは真っ暗である。
それでも夜の授業など…天文学など…があるせいか、夜に学校内を出歩いていてもそんなに気にされないようだ。
ただ、外にでればそれは別だろう。
ふと、は気付く。
「今日、満月なんだ」
影を作るほどの輝きをした満月。
青白い光は幻想的でどこか怖い。
は顔を少し顰める。
「…ということは、今頃ウチではお母さんのスペシャル技がお父さんに炸裂している頃かなぁ」
(哀れ、お父さん。頑張って、無事に耐えてね)
はちょっと黙祷をしてみたりする。
彼女の家の事情をまったく知らない人、知ってる人は本当にごくわずかだが…が聞けば何のことだか分からないだろう。
の家では、満月の夜はそれこそどこぞのギャグのような出来事が起こるのである。
愉快な親戚達には、その出来事は面白おかしく伝わっている。
「ふっ。こんなこと、リリーやセフィアには言えないよね」
どこか遠い目をする。
その視線の先には暴れ柳。
てくてく歩いているうちに、外まで来てしまったようだ。
これ以上外の行ってはいけないと思い、は引き返そうとした。
だが、暴れ柳の近くに人影が見えた。
「あ、れ?…リーマス?」
リーマスらしき人影が暴れ柳の影から見えた。
そして消えた。
「へ…?」
暴れるはずの暴れ柳が静かだったのも気になったが、リーマスの姿が忽然と消えたのだ。
人がそんなすぐに消えるはずがない。
姿現しの魔法を使ったのならともかく…。
ホグワーツでは姿現しの魔法は使えない。
「となると…、抜け穴があると考えるのが妥当だよね」
大きな暴れ柳。
穴の一つや二つあるだろうと思いつく。
問題は暴れ柳をどう攻略するか。
が近づけば、おそらく暴れ柳は暴れ始めるだろう。
「ここは、お父さんの血が役に立ちそうかな」
ニヤリと笑みを浮かべる。
包みを抱え込み、だんっと地を蹴ると信じられないスピードで駆け出した。
に反応した暴れ柳が彼女を狙う。
しかしは暴れ柳の動きよりも早く根元に近づく。
運よくというか、暴れ柳の根元にある穴にすぐきづき、そこに滑り込んだ。
ざざざ、と足でブレーキをかけ、どうにか止まる。
「ふぅ…、なんとか成功かな?」
ここまでがすばやく動けるのは父親の血を引いているから。
これも、友人達は知らないこと。
父親の血は特別。
両親にも言われている。
あまりこういうことは他の人に言うものではないと。
だから、は聞かれるまでは特にリリーやセフィアにも言わないことにしている。
「さて」
気を取り直してとりあえずは、リーマスを追いかけること。
は奥へと進むことにする。
薄暗い通路。
少しジメジメした感じもある。
「これって隠し通路?」
は少し大きな穴くらいにしか思ってなかったのだが、行き止まりになかなか辿り着かないところと、大雑把ではあるがちゃんと舗装されているところからそう思う。
ホグワーツには隠し部屋や、隠し通路が多いとは聞いてはいたが、まさかこんなところにあるとは思っていなかった。
はあまり隠し通路の類は知らない。
しばらく歩くと、上からわずかに明かりが見える。
上へと続く梯子もあり、はそれを使って上にのぼる。
包みを片手で抱え込んで、片手を使って何とか上る。
今まで学生生活では大人しかったが実はかなり運動神経がいいことは誰も知らなかったりする。
これも父親の血を引いているせいかもしれないと思っている。
がたんっ
「…ケホッ」
たどり着いた場所は崩れかけた屋敷、まさにそんな感じの部屋だった。
壁はぼろぼろ、吹き抜ける風や雨をなんとか防げる程度のような屋敷。
どうしてこんな屋敷とホグワーツが繋がっているのだろう?
不思議に思うだが、少し怖いと思いながらも進んでいく。
「…リーマス、いるの?」
小さな声でだがリーマスを呼んでみる。
するとその声に反応するようにカタリっと物音がした。
音がした方に近づいていく。
「リーマス?」
そこは一つの部屋だった。
その部屋は屋敷の中でもさらに、壁や扉に傷が多く、ぼろぼろの大きなベッドと毛布一枚。
廃墟と言ってもいいだろう。
だが、そのベッドの上にリーマスは驚いた表情でいた。
「…、どうして…」
はずんずんっとリーマスに近づき、目の前に包みを置く。
どうしてこんなところにリーマスがいるかなど、どうでもよかった。
「これ、約束してたもの!せっかく作ったのにリーマスいないんだもん。探したよ?」
「…」
リーマスは約束を破るような人ではない。
「私、今日持ってくよって言ったよね?」
今日持っていくから待っていてと言ったわけではない。
待ち合わせの約束はしていなかったが、リーマスはがお菓子を持っていくと言えば必ず談話室で待っていてくれていたのだ。
それが、今日はいない。
談話室でなく、こんな屋敷に1人でいる。
リーマスは気まずそうに目を逸らすだけ。
「何でこんなところにいるの?」
は別のことを聞いた。
隠れるようにしてこんな場所にいるリーマス。
それは何故?
もしかしたら、が持っていくと言っていたが、今日はたまたま何か重要な急ぎの用事があって…こんなところで何の用事があるかはわからないが…それを伝えられなかったかもしれない。
伝言もなにもなしで、いなくなられるととしては寂しいけれど…事情があるなら仕方ないかもしれないと思っていた。
「だっ駄目だよ!!ここにいたら駄目だ!!早く帰るんだ!」
リーマスはの問いにはっとなり、慌てる。
顔色は真っ青だ。
「え?ちょっと、リーマス?いきなり何?」
「駄目なものは駄目だ!ここは危険だから…っ!」
リーマスは苦しそうに胸を抑える。
はその様子にリーマスは何かの病気なのかと心配して駆け寄る。
「リーマス?!どうし…」
ぱしっ
リーマスはののばした手を振り払う。
苦しそうに胸をおさえたままだ。
振り払われた手を見て、は悲しくなったがリーマスの様子がおかしい。
「…逃げ…、ぐっ!!」
「リーマス?!!」
倒れそうになるリーマスを支えようとする。
その瞬間リーマスに変化が訪れる。
鳶色の髪の毛は伸び始め、そして顔や腕からも毛が生えてくる。
体つきは変わり、少し小さくなったか、否、耳が獣のの耳へと変わっていく。
「え…?」
リーマスの変化に驚く。
人の姿から狼の姿へと。
「逃げて…、ハヤク…グ…ゥ…」
今日は満月。
そして満月に狼へと変わるのは人狼。
人狼は何も考えずに人を襲う。
応えるのは同族からの呼びかけのみ。
それ以外は全て敵であるように、友人も知人も、家族も、そして大切な人も関係なく襲う。
「リーマスが、人狼…?」
驚いたまま固まっていただが、リーマスが完全に獣へと変化したことではっとする。
そう、ここにいるのは危険。
普通ならば危険なのだ。
顔を上げを獲物とみなすリーマス。
に襲い掛かろうとするリーマスだが、は冷静にその動きを追い…
ごすっっっ!!!
リーマスの鳩尾に拳を連続で3発ほど叩き込む。
そのままリーマスは意識を失い…どさりっとベッドの上に倒れこんだ。
「ふぅ。まさか、この技をホグワーツでも使うことになるなん思わなかった」
度胸が据わっているというか、恐怖など全然見えないだったりした。
そのまま、獣に変化したままのリーマスを抱きしめてもぼろぼろのベッドに横になる。
次の日の朝まで二人はゆっくりと夢の中に…。
いや、リーマスは気絶しているだけなのだが。
*
僅かに射す朝陽でリーマスは目が覚める。
ぼーっとした頭で、少し鳩尾辺りが傷むことに不思議だと思いながらも起き上がり…隣にぬくもりを感じることに違和感があった。
ぼーっとしたまま隣を見れば…。
「っ?!!?!」
いるはずのない相手が隣ですやすやと寝息をたてていた。
リーマスのその大声に反応したのかの目が覚める。
「う、ん?リーマス?…おはよ」
「あ、うん。おはよう…、じゃないよ。君なんでここに?!」
目をこすりながら起き上がる。
ぱちぱちっと何回か瞬きをしてリーマスを見る。
「何でって、だって昨日せっかく約束したチョコ作ったのにリーマスいないから探してて」
「そうじゃないよ、だって昨日は満月だったのに」
そう、満月だったのだ。
まだ人狼の現象を抑える薬は開発されていない。
だからリーマスは月に1度、この屋敷に来て1人で耐えていた。
「あ、そっか、ごめん、リーマス。お父さんと同じように手加減なしでやっちゃったから痛くない?」
「え?」
「鳩尾痛くない?」
は何も気にした様子もなく、リーマスに話しかける。
その表情は申し訳なさそうだ。
「…少し」
「うわ〜、ごめん〜。あれって対大人の人狼用だから、まだ子供のリーマスにはちょっときつかったかもしれないんだよね。あとでマダムに言って治してもらおう?」
はリーマスの鳩尾辺りを心配そうに眺める。
驚いたのはリーマス。
の反応が思ったものと違ったからだ。
「?」
「うん、何?」
リーマスは人狼だと完全ににはばれてしまっただろうに、の態度は全く変わっていない。
の瞳には恐怖も、そして侮蔑するような感情も見えない。
「怖く、ないの?」
「何が?」
きょとんっとする。
「僕、人狼なんだよ?」
自分で口に出すのはまだ躊躇われるリーマス。
この体質のせいでいろいろ辛いことがあった。
仲の良かった友達に拒否されることもあった。
「あ、うん、驚いたよ。いきなり狼になるんだもん」
は気にせずに苦笑する。
「どうして…?」
「うん?」
「どうして怖がらないの?」
普通ならば怖がり、恐怖におびえ罵倒するはずだ。
今こうしてとリーマスが普通に向かい合っていること自体考えられなかったこと。
「別に怖くないよ。だって、人狼が狼になっても私には対抗手段あるしね」
「対抗手段?」
そんなものがあっただろうか?
リーマスが知る限りそんなものはない。
そんな方法があれば、自分の両親も苦労はなしないはずだとリマースは思う。。
「そう、人狼を一晩だけ気絶させておく方法。拳にね魔力をこめて思いっきり鳩尾に叩き込むの。私の場合、力と魔力がまだ足りないから連続で3回ほどやらないと効かないんだけどね」
苦笑する。
リーマスは不思議に思う。
どうして彼女はこうして平然としているのか。
自分を見る目が変わると、せっかく築いた関係はなくなってしまうと思っていたのに。
「あとね」
「あと?」
「私が別に人狼怖くないのって、ウチのお父さんも人狼だから…かな?」
「え?」
リリーやセフィアにも言えないの秘密。
人狼の娘だと知られたくない、というより人狼であるあの父親とその妻である母の明るさがなんとも言えないもので知られたくないというのが本音なのだが。
恐らく昨夜、ウチでは母の拳が容赦なく父に炸裂していただろうと思う。
幼いながらその父の姿には哀れみを覚えたものだ。
そんなものを見ているせいか、人狼は全然怖くないのだ。
「リーマスが人狼なら早く言ってくれればよかったのに。私、満月の晩、側にいれるよ?」
「それは、対抗手段があるから?」
リーマスは湧き上がる嬉しさがおさえ切れないように言う。
もしかしたら、孤独な夜が終わるかもしれないという希望があるから。
「それもあるけどね。私、噛みつかれても人狼にはならないよ。お父さんが人狼のせいか「人狼」の血はもう入ってる、でも私は満月の夜に変化はない。医者は生まれる際の回復能力で「人狼」に対してのの抗体ができてるんじゃないかって言ってたけど…詳しいことは分からない。もちろん実証済みだよ、お父さんに噛まれたけどなんともならなかったしね」
けろっととんでもないことを言う。
ついで言えば、狼としての素早さ等はちゃんと引き継いでいるらしく意識すれば人間外のすばやさで走ることが可能である。
それがの運動神経がよかったりする要因である。
そもそも、が生まれてからずっと母があの手段で父を抑え続けることなど無理なのだ。
人である以上忘れてしまうこともある。
父は獣へと変化し娘を噛んでしまった…しかし娘に変化は現れなかった。
「独りで絶えるのって、すっごい大変だってお父さん言ってたよ?孤独と、そして自分が違うものへと変わってしまう恐怖と、それから朝は自分がしてしまったことへの罪悪感と人でないと自覚させられた嫌悪感。お父さんはお母さんに会って救われたって言ってた。お母さんは満月の夜はいつもお父さんを張り倒してるし、それでも幸せだって」
(まぁ、なんかそれってお父さんがマゾっぽくてなんか嫌だけど。気絶するほど殴られて幸せ感じるって、どうなんだろう)
「独りは誰でも嫌だよ?だから、これからは私が側にいるよ。私だけじゃ、大して役に立てないかも知れないけど、いないよりましだと思…、リ、リーマス?!」
突然リーマスに抱きしめられた。
ちなみに、現在のリーマスは狼に変身して戻った後なので服は着ていない。
アニメーガスと違って、人狼は服ごと変わるわけではないのだ。
ぱっと見、細い体かと思われるリーマスだが、抱きしめられると男の子なんだと分かる。
など腕の中に簡単におさまってしまう。
「リ、リーマス?!え?ちょっと何で…」
「ありがとう」
を抱きしめる腕の力を強めるリーマス。
「え?」
「ありがとう、。嬉しいよ」
大切な友人達も理解して怖がらないでいてくれる。
それでも、やはり独りの夜は寂しくて、怖くて、そして悲しい。
ずっとこの孤独の闇が続くのかと思っていた。
けれど、今日初めて光が見えたと思ったリーマスである。
は、顔を少し赤くしながらリーマスに大人しく抱きしめられていた。
恥ずかしい気持ちはある。
でも、自分の父のことを知っている分、リーマスの寂しさが少し分かる。
だから、その手から逃れることなど考えもしなかった。
少し二人の距離が近づいた夜だった。