マグルにおける魔法使いの考察 4






は一人でダイアゴン横丁を歩いていた。
ローブも着ていないマグルが一人でダイアゴン横丁を歩いていればじろじろ見られるのは当たり前。
だが、はまったく気にしていなかった。
本当ならば今日もリリーと同じくデートをする予定だったのだが、はお世話になっている生物工学の教授に頼まれていたものがここなら手に入るかもしれないと思い、薬草の売っている場所に行きたかった。
だが、リリーは教科書を揃えたかったらしく今日は別行動となった。
用事が済み次第リリーとは合流予定である。


「未確定情報の薬草まで求めるのは教授らしいが…」

紙に書かれた薬草名と特徴を見ながらは呟いていた。
とは専門分野は違うが、この教授には随分よくしてもらったのだ。
こんな薬草があれば…と言っていたので手に入れば喜んでくれるだろう。
そう、これは頼まれごとというよりも、どこかでそれらしいものを見かけたらお願いします、という程度のものだった。

「魔法界の噂の帝王よりも、絶対教授の方が恐ろしいと言えると思う」

今の魔法界では「闇の帝王」と呼ばれる存在がいるらしいと聞いたことがある。
死の呪文を使いこなし、魔法使いやマグルを殺害する恐怖の帝王。
だが、そう言われてもピンとこない
尊敬しているとも言えるお世話になった教授の方がよっぽど不気味だ。
その恩師に対して接するのに慣れてしまっているだが、客観的に見ればあの人ほどたちの悪い人間はいないのではないかとすら、思わせるほどだ。

「あの人は下手な外科医よりも人体を刻むのが上手なのがさらにタチが悪い」

ぶつぶつと独り言を言っているうちに目的の薬草店についた。
魔法界の建物はどれも古めかしい感じがする。
科学技術が一切使われていないため、鉄筋コンクリートの建物などない。
殆どが人の手か魔法によるものなのだろう。
魔法の使い方によっては鉄筋コンクリートの建物を建てることも可能だろうが…。

きぃ…と扉を開くと、むっとするような薬草の臭い。
店内には様々な薬草が並んでいる。
が見たことあるものから全く知らないものまで。
店内が薄暗いので良く見えないが、奥の方には店主とお客がいるようである。

「すみません、『カプレア』という紅い実を捜しているのです…が…」

の言葉がぴたりっと止まる。
店主と話していたのは昨日会ったセブルスだったのだから…。
不機嫌そうなセブルスの顔が更に不機嫌そうになるのが分かった。

「貴様…」
「お客様、『カプレア』ならばございますがいくつご所望でしょうか?」

セブルスの言葉を遮るように店主がにこやかに対応してくる。
のローブを纏わない格好にもダイアゴン横丁の人たちは顔をしかめたりしない。
接客業の鑑とも言っていいだろう。

「ああ、5つほどいただけますか?」

意外なほどに簡単に見つかってあっけなかったと思う
教授はいくら探しても見つからない!と騒いでいたと言うのに…。

「店主、ひとつお聞きしてもよろしいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「この『カプレア』は魔法界にのみ存在するものなのですか?」
「おや?お客様はマグル出身で?」
「あ…はい、そんなところです。知り合いがこれを随分一生懸命探していたのですが見つからず、もしかしたら、ここにならあるかもしれないと思って来てみたのですが…」
「ええ、これは魔法界にのみで売買されるものですよ。情報だけならばもしかしたらマグルの間にも流れてしまっているかもしれませんがね…。お代は10ガリオンになりますよ」
「そうですか…。はい、10ガリオンですね」

流石に値が張るな。
念のために換金に余裕を持たせておいて良かった。

10ガリオン丁度を店主に渡す。
『カプレア』を5つ受け取り、そのまま店を出る
セブルスが何か言いたそうに睨んでいるのは分かったが、昨日のあの険悪な態度とマグル嫌いからして近づかないほうがいいだろうと思って無視した。

店を出てから、ぱちんっと指を鳴らして袋を取り寄せる。
物を呼び寄せる呪文は『アクシオ』だ。
だが、はそんな呪文は知らない。
が魔法を使うタイミングは指を鳴らすことだ。
『カプレア』が手に入ったら防水の袋にきちんと入れて置こうと思って家に買っておいた袋。
ひとつひとつきちんと箱には入っているものの、万が一雨などで濡れてしまっては困るので袋に大切に入れる。


おい!!


ぐいっ


袋に入れ終わったところでぐいっと右腕を引っ張られた。
誰かと思って振り向いてみれば、息を切らしているセブルスがいた。
どうやら薬草店から走って追いかけてきたようだ。

「運動不足に見えるが大丈夫か?」
「っ余計なお世話……だっ!」

気遣って声をかけたというのに怒鳴り返されてしまった。
マグルが嫌いだろうから無視したと言うのにどうしてわざわざ追いかけてくるのか。
嫌いならば放っておけばいいだろうに…。

「そんなにここにマグルがいることが不愉快か?別に永住するわけでもないから見逃してくれてもいいだろう?」
「そうじゃ…ないっ!」

ぜーはーと乱れた息に少し心配になる。
彼は絶対インドア派だろうと確信する。
普段殆ど運動をしない所に、突然全速力…かどうかは分からないが…で走ったりするからだろう。
こんなに体が弱くて魔法使いは大丈夫なのだろうか、と一瞬余計な心配をしてしまうである。

「何か話があるのならば少し休めるところに移動しようか?ミスター・スネイプ」

丁度近くに喫茶店が見える。
そこでどうかな?というように視線を向ければ、セブルスは無言で小さく頷いた。
二人並んで喫茶店へと向かおうとした瞬間…


ばしゃぁんっ


上から冷たい液体が振ってきた。
一瞬もセブルスも何が起こったのか分からなかった。
双方の黒い髪から滴り落ちる液体の色は透明。
無色無臭。
ただの水のようである。
見た目は。
周りをちらりっと見れば、水を被ったのはとセブルスのみ。
上には真っ青な空が広がるのみ。

「……故意か」

ぱたぱたっと滴り落ちる雫。
かかった水は多量だったが、一瞬のことなので酷く濡れているのは肩の部分と髪だけだ。
は撥水性の服のお陰でそこまで酷くない…が、セブルスの方はローブが見事にびちょびちょのようだ。
魔法界の服に撥水や耐水効果はないらしい。
不便だな、と関係のないことを思ったりする。


「っ…!ポッター、ブラック!貴様らか!


お隣で大人しいと思っていたセブルスが突然怒鳴りだす。
ポッターという聞き覚えのある名前。
ポッターとはジェームズ・ポッターのことか?


「よぉ、水も滴るいい男じゃねぇかよ、スネイプ」
「いい男?シリウス、セブルスがいい男だなんて目が腐っているんじゃないかい?」


くすくすっと笑いながら二人の少年が人ゴミから姿を見せる。
一人は見覚えがある、ジェームズだ。
もう一人は随分と顔立ちがいい。
黒くサラサラの髪にダークグレーの瞳。
セブルスを見る目に嘲る様な感情がなければ、随分と女が群がるだろう程のいい男だ。

「君もセブルスなんかと一緒にいて災難だったねぇ」

尚もくすくすっと笑いながらジェームズはを見る。
言葉と表情は全く正反対のものを示している。
災難ではなく、故意だろう。
間違いなく。

「ミスター・ポッター?ひとつ聞いても構わないか?」
「なんだい?」
「これはただの水か?」
「残念ながらただの水だよ。それしかとっさに用意が出来なくてね…、ご期待に添えられなくて残念だけど…」
「そうか…」

ただの水ならば問題ないだろう。
何かの薬品だったり魔法薬だったりすればまた違うだろうが…。

「ミスター・スネイプ。このままでは風邪を引くとまずいだろう。漏れ鍋に行くとしようか」

は構わないがびしょ濡れのセブルスは早く着替えたほうがいいだろう。
セブルスは一緒に行動するのが嫌なのか頷かない。
融通が利かないというか…。
はため息をついてからセブルスの腕を取る。

「ミスター・スネイプ。私に何か話があったのだろう?それも漏れ鍋について着替えが済んでから聞こう」

ぐいっとセブルスの腕を引っ張る。


「逃げるのかい?」


ジェームズがからかうかのような声をかけてくる。
その挑発にセブルスがのりそうになっていたが、腕を引っ張り先に発言することで抑える。

「ああ、勿論逃げるのさ」

なっ…と異論があるかのようなセブルスだったが、視線をちらっと向けて口を閉じさせる。
彼には一度魔法を使ってしまったから、再び使ってしまっても構わないだろう。
魔力を持って口をふさぐ。

「残念ながらポッター、私は無力なマグルだ。魔法使いの君と何の策なく真正面から戦おうなどとは思わないのだよ」
「無力と言うのにリリーのそばにいるつもりかい?リリーは君と違って魔法使いなんだよ?」
「無力ならば傍にいては駄目だと君は言うのか?それに何故リリーの傍にいることに君の許可を得なければならない?」
「僕は……君がリリーに相応しいとは認めない!」

を睨むジェームズの瞳には悲しみが少しだけ見えた。
ホグワーツではリリーはずっと決まった相手などいなかったのだろう。
リリーに想いを寄せる相手がいたとしてもジェームズが何かしていたのかもしれない。
それなのに、ぽっと現れたマグルの彼氏。
しかも自分が知らない間にだ。
悔しいのだろう。

「その台詞、そっくりそのまま君にお返しするよ、ポッター」

親友として、幼馴染として、今のままでは認められない。
子供じみた気持ちのままの少年ではリリーを任せることなど出来ない。
はその場に立ち尽くすジェームズとシリウスを放っておいて、セブルスを引きつれ、漏れ鍋に向かうのだった。