古の魔法 6





戸棚を開かないよう魔法をかけたのはジェームズだ。
だが、扉は開かない。
は何度がドンドン叩いてみたがびくともしない。
扉を叩いてた手に血が滲み出して、諦めて座り込み水晶球を眺めていた。

誰か慌てたようにこの家の中に入り込んでくる青年が一人。
黒く短めの髪、かなりの長身。

『ジェームズ!!』

玄関先に倒れているジェームズを見て、その青年は驚愕した。

『おい、嘘だろ?…まさかっ!!』

はっとなりその青年はどうやら2階のほうに向かう。
はその青年が誰だか分からなかったが、ジェームズの友人らしいことは分かる。
青年は2階のハリーのいる部屋まで慌てて駆け込んできた。

『ハリー!リリー!』

水晶球は青年の動きを追う。
青年の目に飛び込んできたのは、倒れたリリーとすやすやと眠るハリー。
無事なハリーを見てほっとする反面、倒れたままのリリーを見て痛ましそうな表情になる。
青年はハリーを抱き上げて、そのままどこかに行こうとする。

「え?待って!」

は慌てた。
見ず知らずの人にハリーを連れて行かれるわけには行かない。
青年が玄関の方に向かった時に、玄関からのっそりと大きな男が現れる。

「あ、ハグリッド!!」

玄関から来たのは、も知ってるホグワーツの番人であり教師でもあるハグリッド。
ハグリッドは青年の腕の中のハリーを見て、ほっとした表情を見せる。

『シリウス、来てたんかい。ハリーはダンブルドア先生が預け先を決めてくれるそうだから、渡してくれんか?』
『ダンブルドアが?そうか、それなら安心だ』

青年、シリウスはハリーをそうっとハグリッドに手渡す。
この会話でははじめてこの青年がシリウス・ブラックだとわかった。

(この人があのシリウス・ブラック?大量殺人なんてするようには見えない)

『ハグリッド、俺の乗ってきたバイクを使ってくれ。急ぐだろう?』
『だが、シリウス。お前さんは…』
『俺には…まだやることがある。ハリーをはやく安全な場所へ』
『わかっちょる。だが、無茶だけはすんなよ』

ハグリッドはシリウスの肩をぽんぽんっと軽く叩いた。
シリウスは苦笑しながらそれを甘んじて受け入れている。
ハグリッドが外にあったバイクにまたがる。
大型バイクもハグリッドが乗れば三輪車のように小さく見えてしまう。
シリウスは苦笑しながら見送っていたが。

ぶろぉぉぉん…

ハグリッドがバイクのアクセルをふかせて、見えなくなるまで遠くに行ったとたん、表情が激変する。
苦笑したものから殺気を帯びたものへと。
その表情にはびくっとした。

『ピーター、裏切ったな…。アクシオ!箒よ来い!

シリウスはひゅっと杖を振って箒を呼ぶ。
ぱしっと箒を手におさめて、さっと飛び始めた。
恐らく裏切り者のピーター=ペティグリューを追うのだろう。
はそれをじっと見ているしかできなかった。


シリウスはしばらく箒で飛んでから、街中近くでこっそりと降りた。
まるで目標が分かっているかのように進むことに迷いがない。
ピーターに目印でも付けていたのだろうか?
だが、この街中でローブを着て歩くのはかなり奇妙だ。

『どこだ、ピーター…』

こぼれる言葉は低く、そして殺気すらもこもっているのではないのだろうか?
シリウスが突然ぴたりっと歩みをとめ、視線を一点に集中する。
視線の先には一人の怯えた表情の青年が1人。

『ピーター!!』

シリウスが名を呼ぶとその青年、ピーターはびくっとしたようにシリウスの方を見る。
だが、逃げることもせずにじっとシリウスを見返している。

『シリウス、よくわかったね。僕の場所』
『ああ。お前には、自分のしたことをきちんと償ってもらわないとな』

シリウスはカツカツとピーターに近づいていく。
周囲の人々もその二人の様子がおかしいのに気付いたのか、二人から離れて囲むように見る。
ざわつく周囲。
ここはマグルの町だ。

『ピーター、ジェームズ達をどうして裏切…』
『酷いや!シリウス!どうしてジェームズ達を裏切ったんだ!!』
『な、何をっ!』

シリウスの言葉を遮って言い始めるピーター。

『ジェームズ達は、あんなに君を信じていたのに!君はジェームズ達をあの人に売ったんだ!君の裏切りのせいでジェームズ達は…!』
『黙れ!ピーター!!』

状況が悪い。
怯えているピーターに対し、シリウスは殺気立っている。
事情を知らなければ、シリウスが悪いとしか思えない。

『シリウスの裏切り者!』
『黙れ!ピーター!お前の方が…!』

シリウスが杖を振り上げ、ピーターに襲い掛かろうとした。
そこから先はは何故かシリウスでなく、ピーターの方に集中した。

杖を振り上げるシリウス。
ピーターは何を考えたのか、自分の片方の手の小指を千切る。
そして、シリウスを見て薄ら笑いを浮かべた。


っどぉぉぉぉん!!!


突然の爆音。
魔法なのか、爆薬だったのか分からない。
だが、かなりの大規模なものだ。
その瞬間もはピーターに意識を集中させていた。
爆発する寸前、ピーターがネズミになって逃げていくのが、映った。

「アニメーガス…」

ぽつりっと呟く

シリウスは何が起こったのか分からない様子で、呆然と周りを見回した。
崩れかけた道路とビル。
多数の死傷者。
爆発の中心地にシリウスは立っていた。
そして、ふっと笑みをこぼし


『はっはっはっはっは!!』


狂ったように笑い出す。
前髪に隠れて表情は見えない。
周りにはシリウスが狂人にしか見えないだろう。
だが、にはなんとなく分かった。
どうしてシリウスが笑い出したのか。
とてもジェームズ達が大切だったのだろう。
何もできなかった自分を責めて、責めて、そして嘲笑っているのだ。

「悲しいよ。こんなの悲しいよ!!」

の目にも涙があふれていた。
何もできなかったのは自分も同じだ。
ハリーだけが助かった。
それは知っていることとなんら変わりがない。

「こんなのって!」

見ていることしかできない。
なにもできない。

(シリウスのせいじゃないと言いたいのに!私が何もできなかったからなのに!)



『ここを本当に封印するのですか?アルバス』

聞き覚えのある声が水晶球から聞こえてきた。
はっとしてが水晶球を見てみるといつの間にか映像が変わっていた。
場所はどうやらポッター家の外。
そこに映るのは、マクゴナガル先生とダンブルドア先生。
も知っているホグワーツの先生だ。

『このまま残しておいてもどうしようもないじゃろう。ここはヴォルデモートが一度滅びた場所じゃ。興味本位で誰かが荒らしにくるかもしれん。じゃが、興味本位で荒らしてていい場所ではない』
『そうですね』
『あの二人をきちんと埋葬してやりたいがの』

悲しそうな表情をするダンブルドア。
きちんと埋葬したいが、ヴォルデモートが倒れた場所がここならば、ポッター夫婦の墓をつくったとて墓守がいないと荒らされてしまう心配もあるのではないか…。
この家をそのまま墓標としようと言うのだろう。

「ダンブルドア先生」

にはダンブルドアの考えは分からなかった。
だが、亡くなってしまったからといってすぐに埋葬だのされるのは嫌だった。
短い間だったが、とても優しくしてくれた両親の親友達。

クロス・ウォール、静かな時を永遠に…

ダンブルドアが杖を振る。
するとポッター家が何かに包まれる。
はこの家が凍りついたような気がした。
ダンブルドアとマクゴナガルはそのまま少し話をしてこの場を去っていった。
はその様子をぼ〜っと眺めていた。

真実を見るために確かに来た。
けれど、見たかったのはこんな映像じゃなかった。
は瞳を閉じて、一筋の涙を流した。