秘密05
カシュウは聖獣界に住んでいた聖獣である。
レイが生まれる前にレイの父であるカスティアが無理やり召喚して今に至る。
聖獣界の扉が閉じられている今、聖獣は魔力ある者と契約をしなければ弱っていく一方である。
聖獣界とこの人が住まう世界の魔力の流れが違いすぎるからだ。
カシュウは聖獣界ではかなりレベルの高い聖獣のようで、それ相応の魔力を持った者としか契約ができない。
どのくらい強い聖獣で、聖獣界ではどんな存在なのか、そこまではレイも知らない。
「なりゆきぃ?!」
レイがガイ達と同行するに至った経緯を簡単に話すとそうなる。
正確にはリーズに頼まれ、レイがそれに肯定を返したからなのだが、これといった理由は最初は特になかったのである。
つまりはなりゆきのようなものだ。
「レイ、お前、そんな理由で魔物討伐隊なんぞに参加してるのか?っつーか、討伐隊はそんなひょいひょいっと参加できるようなモンなのか?」
仮にも各国公認の正式な部隊のはずである。
そう一般人がひょいひょいっと参加できるはずないのが普通だろう。
「目的が目的だ。魔物討伐時は傭兵や現地の者の手を借りても構わないことになっている」
「んでもよ、それは一時のことだろ?隊に参加とかも別に許可は必要ないのか?」
「決めるのは各隊の責任者だ。オレ達の隊にはいないが、他の隊にはその隊の責任者の一存で加えられた傭兵もいる」
淡々と話すガイの言葉を相槌をうちながら聞いているカシュウ。
レイも自分がガイ達の隊にあっさりと加われたことに少し疑問を覚えていたので、なるほどと思いながら聞いている。
「ガイのとこの責任者って誰だ?」
「リーズだ、リーズ・ファスト」
「リ…っ?!大魔道士か?!」
カシュウは一瞬ぎょっとした表情になる。
ガイのことを知っていたのだから、リーズが大魔道士であることを知っていてもおかしくはないだろうが、すこし大げさな反応だ。
それともカシュウは魔道士に召喚されるような立場でもあるのだから、大魔道士が同行しているということに大きな反応を返してしまうのは仕方ないのか。
「もしかして、ガイとリーズだけか?」
「いや、義妹のサナの3人もいる」
「あ〜、サナ・レストアな。そんだけ揃ってりゃ、確かに十分だわな」
部隊というと結構大きな編成を想像するだろう。
ガイ、リーズ、サナの3人のみというのは本来は少なすぎるのだ。
だが、この組み合わせにカシュウは納得する。
「けど、お前ら他に傭兵か誰か雇おうと思わなかったのか?いくらなんでも大量の魔物相手にする時には、その人数じゃ面倒だろ」
実力があったとしても大量の魔物相手では、剣士であるガイとサナは1体ずつしか相手はできないだろうし、魔道で1度に何体も相手をできるリーズでも、ガイとサナがいる以上はそうそう広範囲の魔法も使えないだろう。
負けることはないだろうが、相手をするのが面倒なのは確かなはずだ。
「実力のない、気の合わん連中と同行したところで何の特になるわけでもないだろ」
「てことは、レイはお前らには認められる実力だってことか?」
「オレに魔道士のことは良く分からん」
「んじゃ、レイは大魔道士のリーズに認められたってことかよ?」
カシュウがレイの方をちらりっと見る。
レイはこくんっと首を傾げるだけ。
それなりの実力があることは自分でも実感はしているが、リーズが認めているというのはどうだろう。
信用はされているとは思うが、レイがリーズの魔道士としての実力を全て知らないように、リーズもレイの魔道士としての実力を全て知っているわけではない。
「本当に大魔道士に認められたなら、すごいことだぜ、レイ」
「うん」
大魔道士の名は世界でも有名だ。
その相手に認められたのならば、レイだって嬉しいと思う。
「まぁ、魔物討伐も構わねぇけどよ、装備だけはちゃんとしとけよ?」
びしっとレイを指差すカシュウ。
「レイ、お前の杖」
「なんかまずい?」
「使い慣れているものの方がいいだろう」
「そーなんだけどな、聞いた話じゃ結構物騒そうじゃねぇか。幻魔獣も関わってるんだろ?」
巨大な召喚陣によって召喚されたはずなのは幻魔獣。
魔獣界でも強大な力を持つ魔物の一種で、魔王とすら言われている存在。
今はまだ何も行動を起こしていないが、ずっとじっとしたままとは考えられないだろう。
「お前らは人間だろ?幻魔獣相手でその装備はちょっと厳しいぜ」
まるで幻魔獣がどんな存在が知っているかのような口調。
「カシュウ幻魔獣を知ってるの?」
「ん?」
レイは知識として幻魔獣の存在を知っているだけで、実際目にしたことはない。
魔獣界に行かなければその存在を見る事は叶わないのは当然だが、普通は魔獣界に進んで行こうと思う者などいないだろう。
レイが幻魔獣について知っていることは本当に少しだけ。
人など及びつかないほどの強大な魔力と凶暴性、そして魔獣界に住んでいる魔獣の中でもとても強大な存在であること。
「知ってるっていやー知ってるけどな。オレは人じゃねぇから、そんな強大な存在とは感じねぇけど、カスティアが手こずったのは見た事あるからな。多分、人間にとっちゃ相当な力がなきゃ相手なんぞできねぇだろ」
「へ…?お父…さん?」
カシュウの言葉に思わずぴたりっと動きが止まるレイ。
まるで父であるカスティアが、過去幻魔獣と対峙したことがあるような物言いだった。
そう言えばとレイは思い出す。
レイが幻魔獣の存在を聞いたのも、父であるカスティアからだった。
魔道士としての基本的な知識、魔獣界、聖獣界に関してのレイの知識の殆どはカスティアから教えられたものだ。
「それは過去にも幻魔獣が召喚されたことがあるということか?」
「いや、ないぜ?流石にあんなモンが召喚されれば大騒ぎになるだろ、普通」
「じゃあ、お父さんどうやって幻魔獣と対峙なんてしたの?」
最もな疑問だろう。
カシュウははぁと巨大なため息をつく。
「カスティアのヤツはイロイロ規格外だからなぁ」
「う、なんとなくそれで納得できる気がする」
レイの父であるカスティアを知らない人には疑問しか浮かばないだろう納得の仕方であるだろう。
世間で大賢者と呼ばれていることから分かるように、その魔法の腕前はかなりのもの。
レイの自分の過小評価はカスティアの実力がすごすぎるところにもあるだろう。
かなりの魔法を使いこなせるレイでさえ、父であるカスティアには全く敵わないのだ。
「大魔道士を倒すほどの魔道士というのだから、すごい魔道士なんだろうな」
「すごいと言いますが、お父さんは色んな意味ですごい人です。実際会って話してみたほうが分かりやすいと思いますよ、ガイ」
「会いに行くならタイミングを気をつけろよ〜。カスティアのヤツ、アイリアさんと一緒に楽しく過ごしているところを邪魔されるとものすんげぇ不機嫌になるから」
笑いながらカシュウが忠告する。
それにレイも苦笑い。
レイの両親は本当に仲がいい、カシュウ曰く新婚当時の仲の良さそのまんまらしいのだ。
「んで、装備の話だけどな。幻魔獣と本気で対峙する気があるなら、もっとマシなもんにしとけ。レイ、お前、昔の杖をそのまんま使ってるだろ」
「あ、うん」
「補助じゃなくて、守りと増幅になるようなヤツにしろ。いっそのこと具合のいいヤツをどっからかかっぱらって来い」
「いや、カシュウ。流石に盗みはまずいって」
「そりゃオレだって分かるけどな、管理主が誰もいねぇ神殿とかからならいんじゃね?」
「う〜ん…」
遺跡と化している神殿に禁呪レベルの武器や杖が眠っていることはある。
殆どが噂であったり偽物であったりするのだが、当たりがないわけではないのだ。
レイの今使っている杖は、レイが魔道士として旅に出た頃に買って、自分で使いやすく魔法をかけたものであり、そう珍しいものではない。
魔道士にとって杖は魔力の安定と増幅機能を兼ね備えたものであるのが一般的だが、レイの杖はその機能を果たしていない。
レイの魔力に杖が耐えられなくなる恐れがあり、全力で魔力を使うことはできないのだ。
「レイの魔力はカスティアやアイリアさん並に飛び抜けたモンだからな、その辺に売ってる杖じゃこの先どうしようもないぜ?杖を飾りにしておくつもりがないなら、もっとマシなもんに変えておけ」
「うん、探してはみる」
いつか今の杖から変えようとは思っていたのだ。
禁呪集めでも自分の増幅になる杖があればもっと楽にもなる。
レイも詳しくは知らないのだが、カシュウは人よりもかなり長生きらしい。
魔獣や聖獣界に居る者達の多くは、人とは寿命が違うらしく、その寿命は保有する魔力に比例するとレイは聞いた事がある。
それが本当かどうかはともかくとして、カシュウの姿は、実はレイが子供の頃から全く変わっていないのだ。
長生きな分、色々なことを知っているのだろう。
レイは何度かアドバイスを貰うことがあった。
「オレは剣にあんまり詳しいわけじゃねぇし、合う合わないは分からんが…。ガイ、お前もその剣じゃ無理だと思うなら、早々に変えとけよ」
ガイが今持っている剣は長剣である。
剣の柄辺りを見ると、大分使い込んでいるのが分かる。
「分かっている」
ガイ自身何か思うところがあるのか、素直に頷いている。
レイが見る限り、ガイが今使っている剣でもガイは十分すぎるほど強いと思う。
剣術に関しては、まさにド素人のレイがそう思っても一流の人から見れば何か違うのかもしれないが、剣術に関してレイはさっぱりだ。
「杖と剣探し」
レイはちらっとガイの方を見る。
「リーズに頼んでみましょうか?」
「寄り道をしていいか、をか?」
「はい。私もガイも、お店で売っている高級なものでは満足できないでしょう」
「そうだな」
店で売っている物というのは基本的に万人向けだ。
レイとガイが欲しいのは専用のもの。
自分だけの専用の杖と剣。
「せっかく色々な所をまわるのですから、それを作ってくれる人を見つけるか、カシュウが言ったように古い神殿を探してみるかしましょう」
「構わないが…」
何か問題でもあるのだろうか、とレイは首を傾げる。
「いや、リーズとサナも同じように新調したいと言い出すんじゃないか」
「そう、ですよね」
あの2人が使っている物が今実力に合わないものかどうかは分からない。
だが、より良いもの見つかるならばそれを探して使いたいと思う気持ちはあるだろう。
「4人分、探すしかないですよ」
「そうだな」
ため息をつくガイとくすくすっと笑うレイ。
リーズとサナの言葉が想像つきそうな気がする。
付き合いはそう長くはないのに、旅をしているうちに互いのことが段々と分かってくる。
それに、レイは嬉しいと感じていた。
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