過ぎ去りし風 前編




ずっと、続くと思ってた。
終わりなんてないと思ってた。

でも、心のどこかでは分かってた。
離れるのが一番いいことだって…。





いつものことだった。
魔族に狙われることもたまにあって、別に油断してたわけじゃなかった。

「ガウリイ!!」

悲鳴のようなあたしの声が森の中に響く。
光に身体を貫かれ、赤いものを散らしながら倒れるガウリイ。
ガウリイならよけられた筈。
よけなかったのは、あたしがいたから。
ガウリイが避けていたら、あたしを貫くはずだった光。

『りな・いんばーす…オマエヲ、ころス…』

人の形もとれない低級の魔族。
涙で視界がぼやける。
震える唇であたしは呪文を唱える。

「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!」

ごうぅぅぅぅん!!

その魔族の最後を見届けることなく、あたしは急いでガウリイに駆け寄る。

「ガウリイ、しっかりして!」

流れ出る血の量にあたしの顔が真っ青になる。

「治療(リカバリイ)!!」

淡い光がガウリイを包み込む。
出血量が多い!!
”治療”程度じゃ…。
お願い、お願い!
ガウリイを連れてかないで!!
ガウリイを助けて!!
……お願い!

あたしを置いてかないで…!!





血が止まったのを見て、あたしは急いで近くの村の魔法医のところにガウリイをつれて行った。
小さな村だったが、そこの魔法医は運良く『復活(リザレクション)』を使えた。
ガウリイはなんとか、助かった。
まだ、青白い顔をしてベットに横たわっているガウリイ。
出血量が多かったから、当分の安静と、たくさんの栄養をとることが大切だと魔法医は言っていた。
あたしはガウリイの頬にそっと手を触れる。

「ばか、ガウリイ。まったくほんとにクラゲなんだから…」

自分の声が震えているのが分かる。
涙が頬をつたう。

「…リナ?」

ガウリイがうっすらと目を開く。

「リナ、泣いてるのか?」

ガウリイがあたしの涙を拭おうと手を伸ばす。

「泣いてなんかないわよ」

涙声で言うあたし。

「全く、相変わらず意地っ張りだな、リナは」

呆れたような口調のガウリイ。
でも、その表情は柔らかい。
なんで?
なんで?そんな顔してられるの?
死んじゃうところだったのよ?

「リナは、リナは怪我ないか?」

あたしは無言で首をこくりと縦に振る。

「そうか、よかった…」

安心したように微笑むガウリイ。
あたしに怪我がなくてもあんたはっ!

「全然、よくないわよ!!死にそうな怪我して何でそんな風に笑ってられるの?!」
「リナが…」
「あたしが何よ?」
「リナが無事なら、オレにはそれが一番だから」
「ばかっ!ばかクラゲ!あんたほんとにクラゲよ!もっと自分のこと考えなさいよ!」
「そんなこと言ってもな、オレ、考えるの苦手だし。それに、考えるより先に、リナを守ること最優先で身体が動いちまうからな」
「全く、ほんとに脳みそヨーグルトなんだから…。とりあえず、さっさと寝る!んで、さっさと元気になりなさい!!」
「リナがキスしてくれたら大人しく寝るさ」
「なっ…!!」

あたしの顔が真っ赤に染まる。
いきなし、何を言うのよ!

「冗談だよ」

くすりと笑うガウリイ。
目が冗談じゃないって言ってるよ、ガウリイ。
あたしはゆっくりとガウリイに顔を近づける。
唇と唇が触れ合う。
触れるだけのキス。
あたしはくるりと後ろを向き、

「早く寝なさいよ!!」

真っ赤になった顔を見られないように、そのまま部屋を出てく。
その時、ガウリイがどんな表情をしてたなんて知らない。
あたしらしくない行動だったかもしれない。
でも、これが最後だから…。
あたしは、魔族に狙われることが多い。
今日みたいなことがまたないとは限らない。
だから

だから…

さよなら、ガウリイ…





息が切れる。
身体も冷え切っているようだ。
長時間、『飛翔界(レイ・ウィング)』で飛び続けたせいだ。

あの日の夜中、ガウリイに部屋の外から『眠り(スリーピング)』をかけて、あたしは一日中飛びつづけていた。
ガウリイから、逃げるように。
本当は、ガウリイに生きててほしいからなんて理由じゃない。
あたしと一緒にいて、ガウリイが目の前で消えてしまうのが嫌だから!
失うのが怖いから!!
ぽたぽたと足元に雫が落ちる。
あたしはいつからこんなに弱くなってしまったんだろう。
失うのが怖いから。
取り残されるのが怖いから、逃げるだなんて、あたしらしくない。
けど、あたしと一緒にいると危険だから。
もう、冥王(ヘルマスター)の時の思いは嫌だ!!
でも、

「ガウリイ…、会いたいよ」

あたしはポツリと呟く。





近くの街の食堂であたしは夕食を取っていた。
ここはガウリイがいた村からかなり離れている。
普通に歩いて来るなら三日は掛かるだろう。
いつものような食欲が湧かない。
ごはんも、おいしくない…。
今日はもう、寝よ。
疲れもあり、あたしは早めに寝ることにした。
盗賊いじめもする気にならないや。
明日は、もっと遠くまで行かなきゃ。

あたしらしくもなく、ぼーっとして街中を歩いていた。
外の世界にでも向かおうか、とでも思った。

「リナさん!リナさーん!!」

あたしの名を呼びながらこちらに向かって来る巫女姿。

「アメリア?」

セイルーンの巫女頭に相応しい服装というのか、あたしが知ってる巫女の衣装より清楚な感じの服装をしている。

「お久しぶりです!リナさん!!」
いつもながら、元気いっぱいのアメリア。

「どうしたの、アメリア。こんなとこで」
「リナさんこそどうしたんですか?…あれ?そういえば、ガウリイさんはどうしました?姿が見えませんが?」

アメリアの言葉にギクリとなる。

「もしかして、リナさん。ついにガウリイさんを売っちゃったんですか?!いけません!いくらリナさんでも、人身売買は悪です!」
「まてぇぇい!あんた、あたしをどういう目で見てるのよ!」
「え、違うんですか?」
「違うに決まってるでしょ!ガウリイとは……まあ、ちょっと訳あって別れたのよ」

あたしの言いにくそうな雰囲気に、アメリアはそれ以上突っ込んでは来なかった。
こういう時、この子のこういう気づかいはありがたい。

「それより、リナさん!私と一緒に悪を倒しに行きましょう!」
「は?」
「私、これからセイルーンの名代としてリクト公国に行くんです。ここで会えたのも何かの縁です!リナさんも一緒にいきましょう!!」
「え?ちょっと、あたしは…」
「私たち正義の仲良し4人組がそろえば怖いものなんてありません!…あ、ガウリイさんがいませんから、正義の仲良し3人組ですね!」

あたしはアメリアに半ば引きずられる形でリクト公国に向かう事になった。
でも、3人組って、まさかゼルがいるの?





リクト公国。
セイルーンからは少し離れた所にある小国である。
希少価値の高い華宝石(ジュエル・フラワー)が唯一生産できるところであり、それが狙いで他国に攻め入られる事もままあるが、未だに国を持続してられる。
まあ、それは裏の情報網が世界一と言われているほどだからであるのだろう。
華宝石とは、様々な色合いのある宝石のような輝きを持つ花のことで、その実は加工すれば不思議な輝きを放ち、煎じて飲めば良薬となる。
前王の嫁はセイルーンの縁の者だと聞いた事がある。
だからセイルーンとの関係は分かるには分かる。

「リクト公国の方に、先にグレイシア姉さんが行ってるんです。姉さんは裏の情報に詳しいですから、先に行っててもらったんです」

リクト公国に向かうセイルーン王家の紋章が入った馬車のなかであたしはアメリアに事情を聞いていた。
なんでも、リクト公国に戦争を仕掛けようとしている組織がいるらしい。
この組織がまた国一つ位の規模があって、リクト公国とは同盟を結んでいるセイルーンが手を貸す事になった。
しかし、仮にも聖王都セイルーン、兵力を送って戦争を公認するような事はできない。
だから、アメリアのような白魔術が使えるものは魔法医の代わりとして、そしてグレイシアさんのように情報を提供するもの、という感じで表立った戦力は送れないのである。

「でも、何でまた王女が二人そろって出向く必要がある訳?」
「身分などは関係ないです!悪を野放しにしておく事なんてできませんからっ!!」

相変わらずの『正義』なのね。
拳を握り締めて燃えてるアメリアをあたしは呆れたように見る。

「それに…」

アメリアの表情が柔らかいものへと変わる。
ふわりと幸せそうな笑みを浮かべる。

「ゼルガディスさんのお役に立ちたいですから」
「は?ゼル?なんでそこでゼルがでて来るのよ」

何故そこでゼルの名前がでてくるのかさっぱり分からなかった。
ゼルの性格や事情を考えると、こうした表向きの事件に首を突っ込むとは思えない。
どこをどうすればゼルが関係するのか。

「あ!リナさんは知らないんでしたね。私も知った時は凄く驚いたんですが、実はゼルガディスさん、リクト公王の従兄弟なんですよ」
「へ?」

思わず、あたしの口から間抜けな声がでる。
ゼルが王族?
まあ、確かに一緒に旅してた時、ないげない仕草とか、すっごく落ちついているように見えたというか品があるように見えたというか…。

「ゼルガディスさん、リクト公王に頼まれて今回の手伝うって聞いてますので。やっぱり、幼馴染が危険な目に合うって聞いたら喜んで手伝いますよね」

いや、あたしは嫌々ながら手伝うゼルの姿が目に浮かぶ気がするが…。
なんか、リクト公王の性格が見えてきた気がする。





のんびりとアメリアと話しながら、あたしはリクト公国についた。
さすが、一国の城。
城内に入ってみて気が付いたが、侵入者への対策がきちんとなされた造りだということが分かる。
普通、城というのものにはどこかしら侵入できる「隙」というものがある。
ここにはそれがない。
セイルーンの王宮ですら多少の「隙」はあったとうのに…。
こういう建物はものが大きくなればなるほど「隙」はできやすい筈なのに。

あたしとアメリアが通されたのは普通の応接間だった。
といっても、座りごごちのいいソファーにこれまた高そうなテーブル。

「そーいや、アメリア。あれからゼルと会ってた訳?」

ゼルがリクト公王の従兄弟だとかなんとか、今回の件に関わってるとか言ってたし。
あたしはアメリアとは『闇を撒くもの(ダーク・スター)』との戦いが終わって以来会ってない。
もちろんゼルとも。

「あ、はい。父さんの代理でリクトに来た時に会ったんです。半年くらい前のことですけどね。…そんな事よりリナさん!」

アメリアはあたしの方をがばっと向く。

「聞きましたよ、リナさん!!また魔王を倒したそうじゃないですか!」
「どっからそんなこと聞いたのよ?!アメリア!」
「さすがリナさんです!各地では、リナさんこそが魔王ではないかとささやかれているほどです!」
「ちょっと、待てぃ!」
「時を重ねるごとに、本当に人間離れしてきますね、リナさん…」

遠い目をしてしみじみと語るな!!
しかもあたしが魔王ってどこで囁かれてるのよ!

「あら、リナじゃない」

ぴしっ
扉の方からした声にあたしは思わず固まる。
聞き覚えのある声。
普段は再会するたびの第一声が高笑いのはずなのだが…。

「姉さん、ゼルガディスさん。あ、お久しぶりです、カルトさん」

アメリアがぺこりと頭を下げる。
振り返りたくない、振り返りたくない。
ものすごく振りかえりたくない。

「そういえば、姉さん。リナさんと知り合いなんですか?」
「ふっ!あたしはリナの最後にして最強のライバルよ!」
「だあああああ!!なんであんたがこんなとこにいんのよっ!!」

ばっとあたしは扉の方を振り返る。
振り返ったあたしの目に映ったものは、いつもの露出度がやたら高いものを着た高笑い女ではなくて、一国の王女らしい服装をきたナーガだった。
思わず、目が点になる。

「リナさんと姉さん、やっぱり知り合いなんですね。改めて紹介する必要はないかもしれませんが…」
「そういえば、リナにはフルネーム名乗ってなかったわね。アメリアの姉のグレイシア=ウル=ナーガ=セイルーンよ」
「い、いやああああ!!ナーガが!!あのナーガがおうぢょさまだなんてぇぇぇ!!」

フィルさんの時と同じくらい――いやそれ以上かもしんないけど――のショックであたしはリクト公王とゼルの存在を無視ししたような感じで叫び声を上げてしまった。
あんなんで大丈夫か?!セイルーン。

とりあえず、落ち着きを取り戻したあたしは、リクト公王達と向き合う。
リクト公王は短めの黒い髪に深緑色の瞳の30前後のなかなかハンサムなおっちゃんである。
ゼルと従兄弟で幼馴染らしいからもう少し若いかと思っていたんだけど。

「先ほどは取り乱してしまってすみません。はじめまして、リナ=インバースといいます」
「よくぞおいでくださいました、リナ=インバースさん。私はカルヴィアト=ネオ=リクト。一応この国の王だ」

王らしく、威厳のこもった声で言うリクト公王。
さすが、裏の情報国と言われる国の王。
この存在感は…。

「いや〜、まさか本当に来てくれるとは。実は半信半疑だったんだがなぁ〜」
「ですよね〜。私もリナさんが素直にここまでついてくるとは思いませんでした」
「だな。リナのこのことだから面倒だと言って来ないと思ったんだが」
「あたしは、依頼料吹っかけてくるかと思ってたわ」

と言うリクト公王、アメリア、ゼル、ナーガ。
………………。
おひ…。

「どういうことよ…」

あたしは怒りのオーラを背後にしょって声を低くする。
先ほどの威厳はどこへやらのリクト公王。

「ま、つまりはだ。今回の戦争はちょっと分が悪いんでな。魔王を倒したと言う『魔を滅するもの(デモン・スレイヤー)』であるリナ=インバースがこちらの味方にいる、という事実があれば相手が動揺するって訳でな。だめもとだったんだが」
「それで、リナさんがいるだろう場所に私がいって誘ってくるってことだったんです!」

成る程。
あれは偶然の再会じゃなくて故意だったわけね。

「オレとしては、リナがこっちについたとしても、確かに敵側は動揺するだろうが味方も動揺すると思うと言っていたんだが…」
「それはどういう意味かな?ゼル」
「そのまんまの意味じゃない、リナ」
「敵も味方もかまわずふっとばすのはあんたでしょうが、ナーガ!」
「ふっ、それはそれ。これはこれよ」

はあああああ。
つ、疲れる…。
あたしだって、本来ならこんな面倒なこと引き受けたりしないわよ。
でも、今は何かしてないとおかしくなりそうだから。
一人でいると悲しみと寂しさで、壊れてしまいそうだったから…。

「つーわけで、よろしく頼む、リナ=インバース。オレのことはカルトでいい」

そう言って、右手を差し出すリクト公王。
諦めたようにあたしも右手を差し出す。
まあ、仕方がないか…。

「こうなったら、やってやろうじゃないの。で?依頼料は?カルトさん」
「やっぱ、そうくるか。話には聞いていたが…」
「誰がただで働くと言ったのよ」
「そうか…。だが、今この国は節約しなければならないのでな。リクトから新鮮なとある貴重な材料をゼフィーリアの『リアランサー』に売っていたんだが、リナ殿が依頼料を望むなら、その値を上げねばならんな」

困ったようにため息をつくカルトさん。
ちょっと待て。
確かゼフィーリアの『リアランサー』って…。

「待ったぁぁぁ!!それだけはっ!!」
「だが、依頼料がないと協力はしてくれないんだろう?」
「いい!!依頼料はいいからそれはしないでぇぇぇぇぇ!!」

そんなことしたら、あたしの命に関わる!!

「そうか♪悪いな。無償でやってくれんのか。助かる、リナ殿」
「へ?」

にこにこと微笑んでるカルトさん。
しまったぁぁぁぁぁぁ!!
この人、知っててやったな!!
絶対そうだ!!!
ぽんっとゼルがあたしの肩に手を置く。

「諦めろ、リナ。オレもにたような手でまるめこまれたから…」

あんたもか、ゼル。

「まるめこむとは失礼な。オレはただちょっと、アメリア姫にお前の昔話をしてやるって言っただけだぞ」
「お前、よりによってあの話をするつもりだっただろうが?!」
「お前がレゾのじーさんと叔母さんに遊ばれた話な」
「ええ?!聞きたいです!カルトさん!」
「おお!聞きたいか?アメリア姫」
「はい!」
「だあああ!!やめろぉぉぉ!!」

こういう人か、カルトさんというのは…。
つい、羨ましいと思ってしまう。
アメリアとゼルのことを…。
そんなこと、思っちゃいけない。

「どうしたのよ、リナ」
「ナーガ…」
「いつものあんたらしくないわよ」
「何言ってるの?別に、いつものあたしよ!」
「あんた、さっき会ったときから気になってたんだけど、すごく淋しそうな目、してるわよ」

真剣な顔して言うナーガ。

「気のせいよ」

あたしは笑顔をつくって言う。
淋しくなんかない!

「そういえば、あんた剣士と一緒に旅してたんじゃないの?確かガウリイ=ガブリエフだっけ?光の剣の末裔の」

びくんっと肩が震える。
あたしは黙ったまま首を横に振る。
はぁ、とナーガがため息をつく。

「まあ、いいけど。しっかりしなさいよ!あんたはあたしのライバルなんだから!!」

ばしーんっとあたしを思いっきり叩くナーガ。
ぐわっしゃぁぁぁぁんんんん!!!
その勢いであたしは思いっきりテーブルに突っ込む。
い、ひたひ…。

「ふっ。こんなのも避けられないなんて、まだまだね。リナ!!」

ぴしっ
あたしは、ゆっくりと起き上がる。

「なぁぁぁがぁぁ?」

ニッコリと笑いながら。

「リ、リナさん…?」

不穏な空気を察したのか、アメリアが不安そうな声をあげる。

「あい、リナ。どうし…。ちょっと、まて!お前、その呪文はっ…!」
「リナさん!ここをどこだと思ってるんですかぁぁ!!やめてくださいぃぃ!!」

ふっふっふ。
ナーガにああ言われて我慢できるか!

「地の果てまで吹っ飛べぇぇぇぇぇ!!竜波斬―――!!
「ちぃっ!!セフィス!!防げ!!!」

あたしの呪文と同時にカルトさんがそう叫んだ。
しゅうぅぅぅぅぅぅ。
竜波斬の赤い閃光が一点に収縮されていく。
しゅんっ
赤い閃光は吸い込まれるように消える。
防がれた?
あたしの竜波斬が…?

「間に合ったか…。助かった、セフィス」

ふわりと降り立ったのは、長く黒い髪、深海のような瞳の綺麗な女性。
魔道士なのか、紺色のローブを着ている。

「いえ、無事で何よりです。カルトさん」
「本気でそんなこと思ってないくせに言うな」

誰?
というかどこから現れた?
何もない空間から突然現れたように見えた。
空間に干渉する力は人間では使えないはず。

「おい、カルト。その女は誰だ?」
「ん?ああ。そーいやゼル達にはまだ会ってなかったな」
「始めまして。ゼルガディスさん、アメリアさん、グレイシアさん、それから、リナ=インバースさん」

ナーガにグレイシアってめちゃめちゃ違和感あるんだけど。

「私の名はセフィス。リナさんのお噂は知り合いから聞いています」

あたしの方を見てニッコリと微笑むセフィスさん。
どーせろくな噂じゃないんだろうけど。

「下手に誤解されて仕事に支障をきたしたくないので、私の目的を言っておきますね」

仕事?
カルトさんに雇われている魔導士じゃないんだろうか。

「私の仕事は離反者の始末、その離反者を見つけるためにこの国を利用し、見返りとして限定つきでこの国の守りをしています」
「離反者?」
「はい。わが主、海王様から離反した者の始末です」
「「「「「なっ……!!」」」」」

カルトさん以外の声が重なる。
海王(ディープ・シー)ダルフィン?!
ってことは、このひとは…。

「私は海王様直属、海神官セフィスです」

海王神官なんて高位魔族が……。
この国を利用して離反者を見つけるって、つまりこれは魔族が関わってるって事?!
どういうことよ?!