アズカバンの囚人編 28
セウィルにはからわかれ、スリザリンの他2名の先輩方には睨まれる日々でなんとなく3日が過ぎる。
あの手の会話さえなければ、セウィルと話すことは楽しい。
セウィルとの会話で驚いたのが闇の魔法の知識の深さだ。
ヴォルもかなり詳しかったので、ヴォルほどではないとも言えるだろうが、13歳の学生の身分でこれほどのものは凄いだろう。
反対にセウィルも、の闇関連の薬品関係の知識の深さに驚いていた。
の場合は自分の生活がかかっているため、法に触れるような高価なもの大抵知っている。
モノを売り払うためにも知識は必要だ。
そんなこんなで日々を過ごしているなのだが、「専門」の者を呼ぶと言っていたダンブルドアからの音沙汰はない。
「そろそろ、自力で帰る方法探した方がいいかな…」
ぽつりっと呟くは図書館で1人きりだった。
『カナリアの小屋』が原因なのは分かっている。
そしてあの時のことを思い返せば、自分は『力』を使っていなかっただろうか…?
「『言霊の力』か…」
は自分の手を見つめる。
魔力が全くない体、それに対して直接的な魔法は全て効かないはず。
それでもこうして影響のあることもある。
それは肉体に直接作用しているものではないからか、それとも他の要因があるからか。
は実のところ、自分の力について使い方は分かっているものの、それがどのようなものなのかはっきりとは分からない。
知っていることはそう多くない。
魔法の変わりに使えるこの力は、ある意味万能であり、ある意味不便なものである。
代行者の想いによって左右され、想いが弱ければ力は通じない。
それゆえか、意思を持たない『物』に対してはかなりの力を発揮する。
この力と『最良』といわれる未来を知り、それに導くためにいる代行者。
出来ることならば、この時代にいるはずの先代に一度会ってみたいと思う。
迷いがある。
いろいろな迷いがまだある。
話が一度でもできれば、何かしらの答えが出るかもしれない。
「考えていても仕方ないか…」
ふぅ…と軽くため息をつき、は図書館の出口に向かった。
この時代の生徒でない為に、本を借りることは出来ないが、図書館の本を読むことは出来る。
未だにスリザリンのネクタイとローブのままなのがちょっぴり悲しい。
が身に付けていたグリフィンドールのネクタイとローブはセウィルが隠したとしか思えないのだが…。
「はぁ……、セウィル君って、あの双子より厄介かも…」
深いため息がでてしまう。
タイプで言うならば、シェリナのようなタイプと近いかもしれない。
純血一族の子でマグル出身であるを嫌わない人は、この手の性格の人が多いかもしれない。
そのまま図書館からでて、スリザリン寮に向かう。
「おお、ここにいたのかね、」
後ろから声をかけられてふりむく。
そこにはにこやかな笑顔で立っているダンブルドア。
3日しか経っていないのだが、すごく久しぶりのような気がする。
「スリザリンの制服も似合っているようじゃの」
ふぉっふぉっふぉと笑いながらに話しかけてくるダンブルドア。
「…褒められてもあまり嬉しくないです…」
「そうかの?じゃが、仲良くやってるようで何よりじゃ」
「そうですね。マグル出身の僕のことをあまり良く思わない先輩方もいますが、リドル先輩とセウィル君には仲良くさせてもらってます」
優等生のリドルとを気に入ったらしいセウィルはよく構ってくれる。
リドルの優等生振りの徹底の仕方には感心するほどだ。
確かにこれは完璧と言っていいだろう。
「それはいいことじゃ。遅くなってしまったが”時”の専門の者と連絡が取れたのでの、明日来てくれるそうじゃ。今はまだ危険な時期での、予定の変更はまだあるかもしれんが…」
「変更は構いませんけど…。危険な時期って…?」
「その専門家はある者に命を狙われているのじゃよ。ホグワーツも完全には安全とは言えないんじゃ、悲しいことにの…。移動するのは危険なのじゃが、をいつまでもここに残しておくわけにもいかんじゃろう」
「あ、でも、相手が大変なようならばそんなに急がなくても僕は構いませんが…」
忙しい相手を無理やり呼びつけるのも悪いだろう。
命の危険性があれば尚更だ。
の言葉にダンブルドアは首をゆっくり横に振った。
「彼女が言うには、別の時代の者がここに長く留まることは危険なことだということ言っているんじゃよ。この時代になじみすぎると元の時代に戻れなくなってしまう可能性が高くなるとな」
「…それはちょっと困ります」
元の時代に戻ってやるべきことがにはある。
見届けなければならない。
「明日、話を聞くといいじゃろう。その前に生徒達には今日、日が暮れてからは外に出ないように言わないとならないのぉ…」
「ダンブルドア…?」
悲しそうな表情をしたダンブルドアをは不思議に思う。
どうして生徒達が外に出ることを禁じるのだろう。
その来るという専門家に関係あるのだろうか?
「彼女は命を狙われておる。彼女の命を狙っている相手は手段を選ばんのじゃよ。それこそホグワーツにいる生徒達のことなどは考えることはないじゃろう。生徒達を危険にさらすわけにはいかんからの」
「そんなに危険なのですか?」
「危険じゃ。相手は闇の魔法使いじゃ」
え?ちょっと待って。
闇の魔法使いが狙う「時」の専門家の彼女。
この時代は確かグリンデルバルドがいる時代。
リドルが7年生で…この時、グリンデルバルドはまだいた?
「ダンブルドア、この時代はグリンデルバルドは健在なのですか?」
の問いにダンブルドアは小さく頷く。
その表情は真剣なもので…。
「ホグワーツに来る専門家というのは………シアン=レイブンクロー…ですか?」
彼女は魔法使いではない。
だから「時」の魔法の専門家ではないはずだ。
けれども直感的に思った。
闇の魔法使いに狙われる彼女。
僅かにダンブルドアが驚きを見せる。
「はシアンのことを知っておるのかね?」
「名前…だけは」
「誰に聞いたんじゃ?シアンは名を後世に残すことを残すことを好んでおらん。それ故その名を知るものすら少ないはずじゃ」
やはり、ダンブルドアの言う専門家は「シアン=レイブンクロー」のことなのだろう。
否定の言葉が帰ってこない。
肯定もしないのはを警戒しているからか…?
「聞いたのは、ダンブルドアにですよ」
苦笑しながら答える。
ダンブルドアに教えてもらわなくても知ることは出来たかもしれない。
けれども、一番最初に彼女の名を教えてくれたのはダンブルドアだ。
「僕は彼女の跡を継ぐ者…ですから。」
驚きで目を開くダンブルドア。
しかし、その瞳はすぐに悲しげなものになる。
そうか…と小さな声でダンブルドアが呟くのが聞こえた。
「それでは、明日ですね。宜しくお願いします、ダンブルドア」
ぺこっとは軽くお辞儀をして、くるりっとダンブルドアに背を向ける。
今、この時代は丁度グリンデルバルドとの決着がつけられようとしている。
一つの闇の時代が終わる時期だ。
そして未来のもう一つの闇が目覚めようとする時期でもあるのだろう。
はホグワーツ城の外にいる。
禁じられた森が良く見える丘。
まだ日は暮れていない。
静かな森、そして静かな空気。
ホグワーツは世界中でも最も安全だと言われるのは未来の事。
「〜!なにやってるの〜?!先生方が危ないから外に出るなってさっき連絡してたよ〜!」
遠くの方からセウィルの声が聞こえる。
振り向いてみればホグワーツ城の方からセウィル駆けてくる。
苦笑しながらセウィルを見るだったが、セウィルがはっと何かに気付き杖を取り出したのを見て不思議に思う。
「アバダ・ケダブラ!!」
セウィルの呪文と当時に緑色の閃光がの真横を通り過ぎる。
呪文の種類に流石のもぎょっとするが…
ぐぉぉぉぉぉん!!!
すぐ後ろから苦しく呻く声が聞こえて振り返る。
そこには茶色い毛で覆われた巨体がいた。
呻き声は小さくなり、ずぅんっと大きな音を立てて倒れる。
「、大丈夫?!」
「え?あ…うん。全然平気……だけど、これ、何?」
倒れた巨体をちらりっと見る。
授業では習っていない魔法生物なのか。
しかし、はこれと似たものを見たことはある。
それは授業中でなく、普段の薬草薬品等を取りに行った先に襲い掛かってくるもののひとつにだ。
「グリンデルバルドの合成獣だよ。なんか、ホグワーツに来るかもしれないっていうんで、生徒達は外出るなってさっき言われたんだ」
「へぇ〜、これって合成獣なんだ」
通りで教科書には載っていないはずである。
言うなれば、グリンデルバルド配下のオリジナルの魔法生物なのだろう。
「感心しない。襲われるところだったんだよ?」
「あ、そうだね。うん、ありがとう、セウィル君」
「そうじゃないって!もう!が襲われていいのは僕とリドル先輩だけだからね!気をつけてよ」
「う、うん。…………え?」
何か聞き捨てならない言葉ではなかっただろうか…?
「あとはリドル先輩探さないと…」
きょろきょろっと周りを見回すセウィルの様子に、先ほどの言葉に対して突っ込むに突っ込めない。
変わりにセウィルの言葉に疑問を覚える。
「セウィル君。もしかして、リドル先輩も…?」
「そうなんだよ。リドル先輩なら平気だとは思うけど、一応先生方の連絡事項は伝えておかないと…」
「じゃあ、僕も一緒に探すよ。ホグワーツの外は広いし、急いだ方がいいでしょ?」
1人より2人で探した方が効率はいいだろう。
先ほどのような合成獣がうろうろしまくっていたら、流石のリドルも厳しいはずだ。
やられはしないとは思うが…。
「駄目だよ、ってさっきのみたいな合成獣倒せるほどの魔法使える?禁じられた魔法が何も使えないようじゃ危険だよ」
「でも、セウィル君1人じゃ時間かかるだろうし…」
「僕は平気。さっきの魔法で分かっただろうけど、アレが使えるし。あ、でも…」
セウィルはすっとの右耳に手を伸ばす。
反射的に身を引きそうになるがなんとか堪える。
セウィルはの右耳のピアスに触れて何かを確認する。
「そうだね…、一度だけなら平気かもしれない」
「何が…?」
「はそのピアスの効力は聞いてる?」
「一応、血の臭いに反応することと、一度だけ身を守ってくれるってことは…」
セブルスはそう言っていた。
これがセウィルと同じものであるのなら、その効力はリドルが付けたことになる。
どういう理由でその効力を付けたのかはわからないが…。
「同じだね、それなら大丈夫…かな?このピアスはリドル先輩が僕に勝手に死ぬなって意味でくれたものでもあるからね。一度だけ身を守ってくれる機能があるんだ」
自分の側にいると言ったのだから、自分のあずかり知らぬところで勝手に死ぬなという意味なのだろうか。
それはそれでリドルの優しさなのかもしれない。
ヴォルと同じ不器用な優しさ。
は思わず笑みを浮かべてしまう。
「何笑ってるの、。笑っている場合じゃないよ、もう」
「ごめん…、それじゃあ、二手に分かれようよ。僕はこっちから探すよ。セウィル君は向こうからで」
「そうだね。もしかしたら森の中にいるかもしれないけれど…、森の中は危険だからね、くれぐれも注意して。それから一度襲われたら引き返すこと!」
「了解」
くすくすっと笑う。
心配してくれるセウィルの気持ちが嬉しい。
「だから笑っている場合じゃないよ、。もう、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって」
「その体に傷一つでもつけてきたら、舐めて消毒するからね」
「絶対無傷で帰ってくる!!」
さらりっとなんて事を言うのだ?!
「そうやって即答されるとちょっと複雑な気分なんだけど…。あと、一応これを持って行って、」
セウィルは懐から片手で持てるサイズの瓶を取り出す。
小瓶と言うには少し大きめのそれには透明の液体が入っている。
そっとの手に握らされるそれ。
「空気に触れると何でも溶かす危険な液体だから、何か怪しい人影見えたら問答無用で投げてみてね。容器自体は衝撃には脆いものだからすぐ割れると思うよ」
「…あ、あの?セウィル君?」
「大丈夫。この量なら人相手に使っても肉と皮が少々溶けるだけだから、命に別状はないはずだよ。当たり所が悪ければ身体機能の低下に繋がるかもしれないけどね」
「それって全然大丈夫じゃないような……」
「でも、は僕みたいに片っ端から出てきた影に『死の呪文』使うような性格じゃないと思うから…、危険な時は使ってね」
心配そうな表情でセウィルに握らされた瓶を複雑な表情で見る。
なんかとんでもなく物騒なものを預けられた気分だ。
しかも、セウィルの口からはさらりっと物騒な台詞が出ていた気がする。
「じゃあ、僕は向こうから行くから。、気をつけてね!!」
「う、うん…」
片手を上げて向こう側へと走っていくセウィル。
先ほどセウィルの魔法で倒れた巨体と小さくなっていくセウィルを見比べる。
片や現在の闇の帝王とも言われるべき者の配下の合成獣、片やホグワーツの3年生の少年。
普通に聞けばセウィルの方が不利に感じるだろうが…。
なんか、グリンデルバルドの配下の合成獣のほうが可哀想な気がする。
容赦の欠片も見られないセウィルの様子に、ちょっぴり変な同情心をしてしまっただった。