空と風は同じ




はエド達と旅をしていた。
やはり漫画で読むよりも旅はハードで、意外と自分は体力がなかったんだな〜と思ったりもした。
『ディアクヴァン』の事件では、やるべきことがあり、それに集中していたので考えることはそればかりだった。

とある町の宿ではぼやっと窓の外を眺めている。
エドもアルも情報収集をしに町にでている。
比較的穏やかな町。
さわさわっと風が吹き込む。

「あ、やばい……」

は膝を抱え込んで頭を伏せた。
ベッドの上から窓の外を眺めていたは、丸まるように小さくなる。

こうやってゆっくりとしていると思い出しそうになる。
来たばかりの頃は、やるべきことがあったから同じ状況でも思い出すことなんてなかった。
今は特に目的もなく、自分の居場所を手探りで探しているようなものである。
エドとアルが側にいるときはいい。
1人じゃないと感じられるから…。
でも、1人になると…

涙がでそうになる。

ホームシックかな…?と最初は思った。
似たようなものかもしれない。

空も、風も、…知っているものと同じように感じるのに、景色に知っているものは何もない。
生まれて、生きてきた世界と違うものがここには溢れている。
大好きなハガレンの世界だけれども…寂しさは消えない。

(これって、贅沢な悩みかな?)

は自分を守るように、抱え込むように小さくなる。


?!!


名前を呼ばれたと同時に肩に感じる硬い感触。
は、はっとして顔を上げる。
涙など一滴もでていない。
それにほっとしながらも、は名前を呼んだ相手を見る。
金色の髪のエドが心配そうな表情でを見てた。

「エド…?どうしたの?」

きょとんっとは不思議そうな顔をする。
いつもと変わらないの様子にエドははぁ〜と安心したようなため息をこぼした。

「お前なぁ〜、心配かけるなよ」

エドはぺたんっとベッドに上半身だけ倒れこむ。
ほっとした為、力が抜けたようだ。
ちらっとに視線を移してみればはきょとんっとしたままだ。

「心配って何が?」

良くわかってないにエドはため息を再びつく。

「部屋を何気に覗いてみれば、お前、ベッドの上で丸まってるし、具合でも悪いのかと思ったんだぞ」
え…?

確かにベッドの上でじっと丸まっていれば何かあったのかと思うだろう。
特に病気で母親を亡くしているエドはそういうことが敏感なのかもしれない。

「大丈夫、別に何でもないって」

はにこにこっと笑みを浮かべて手を振る。
体はいたって健康そのものだ。
最もエド達よりも体力はないので疲れやすいかもしれないだろうが。
そんなをエドはじっと見る。

、お前何か無理してないか?」

ぴくっと反応する
しかし、すぐに笑顔になる。

「多少の無理しないと体力的についていけないからね〜」
「そうじゃねぇよ」

すっと体を起こして、エドは真正面からを見る。

「何我慢してるんだ?オレ達と一緒なのは嫌なのか?」
そんなことない!エド達には感謝してるよ!だって、どこの誰とも分からない私を旅に同行させてくれるし…!」
「だったら」

すっとエドの機械鎧でない方の左手をの額に近づける。
人差し指を曲げて親指でおさえるような形を取り…

ぺしっ

っ…?!

はデコピンされて軽く痛む額を押さえる。
エドを睨めば、エドは不機嫌そうな表情である。
機械鎧の方でやられなかった分ましだろう。

「隠し事とかするな。一緒に旅をすると決めた時点で、オレはのことを仲間だと思っている」
「仲、間…?」
「違うか?」

は驚く。
自分は何も出来ないから足手まといだと思われていると思った。
疎まれてはいないだろうが、仲間と認識してくれているとは。

「違わ、ない」
「だろ?」

にっとエドが笑みを浮かべる。

、全てを話せとはオレは言わねぇよ。けどな、そんな顔してるのに放っておけるわけないだろ?」

の顔を覗きこむように見るエド。
これではまるでエドの方が大人のようだ。
生きてる長さはの方が確かに長い。
けれども…エドの方がいろいろな経験をしているからなのか。

「私、変な顔してる?」

普通に平気そうに笑っているつもりだった。
この湧き上がる寂しさは1人のときにしか来ないものだから。

「してるぜ?何だよ、もしかして昔の事でも思い出したのか?すっげぇ、寂しそうな顔」

は一応記憶喪失ということになっている。
実際は記憶はしっかりあって、異世界から来たということを言えないでいるだけなのだが…。
思えば、エド達にはお世話になっているものの話していないことが多いのかもしれない。
それはエド達にとってもそうだろうけれども…はエド達の身の上を知っている。
それなのに、これ以上頼ってしまっていいのだろうか…?

「うん…」

は何も言わずにエドの肩に頭を乗せる。
少しでも触れていると安心する。

「ごめん、ちょっと肩貸してね」
「別に肩くらい、いつでもいいぜ?軽い頭だしな」
「む、それって馬鹿にしてるの?」
「さぁな」
「酷いなぁ〜、そりゃ錬金術師という科学者のエドやアルには敵わないけどさ」

くすくすっと笑う
エドがを元気づけるためにこういうことをわざわざ言ってくれているのは分かる。
悪気がないというのが口調に現れているから。

「一つだけ、お願いしていいかな?」
「なんだよ?」

ぎゅっとエドの袖を握る。
顔を傾けて、エドの肩に頭を乗せたままエドの顔を見る。


「1人にしないで…」


は自分では自覚していなかっただろうが、その時のの表情は泣きそうなものだった。
エドは驚いたように目を開く。
しばらくどちらも何も言わずに互いを見る。


さわさわっと窓から気持ちのいい風が吹き込む。
さらさらとエドとの髪を風が優しく包む。
動いたのはエドの方だった。
をゆっくりと引き剥がす。
離されたの方はさらに顔を歪めて完全に泣きそうになるが。

べしっ

エドのチョップがの頭に決まる。

いったぁー!

は頭を抱える。
今度は寂しさでなく、痛みで泣きそうになる。
何しろエドは機械鎧の方でチョップしてきたのだ。

何すんの!
が馬鹿なこと言うからだろ?」
「馬鹿なことって何?!私は真剣に…!」
「それが馬鹿だって言うんだよ」

エドは腕を組んでを見下ろすように見る。

「側にいたいならそう言えばいいだろ?オレ達は別にを置いてくつもりはないぜ?ついて来たければどんな時でもついてこればいいだろ?今日みたいな時でもさ」
「え?」
「遠慮なんかするな!遠慮する立場じゃないだろ、お前は!もっと好き勝手していいんだよ!」

びしっとエドはを指差す。
後悔しない生き方をしろ…と言いたいのだろう。

「あ…、うん。ありがとう、エド」

は笑みを見せる。
これは本当の笑み。
嬉しいから笑う。
エドも笑みを返す。

寂しさも不安もまだあるけれど…、ここは全く知らない場所じゃない。
知っているのは知識の中でだけ。
それでも1人じゃない。
違う世界でも、1人じゃなければ…きっと頑張れる。

たまに元の世界を思い出すことはあるかもしれないけれど…、今はこの時を大切にして行こう。