黄金の監視者 22



黒の騎士団の内部に見慣れない1人の少女がいるのをは見かけた。
緑色の長い髪に、しかもブリタニア軍で見かけた事のある拘束服を着ている。
聞けばゼロの仲間らしいとの事。
しかも、普段ずっと黒の騎士団にいるわけではなく、たまにゼロと一緒にいるのを見かける程度だ。
1人でいるところを見るのは少ない。

「私に何か用か?」

たまたま1人でいた彼女をじっと見ていたとに気づかれたらしく、彼女の方が視線を向けてきた。

「えっと…」

なんとなく見ていただけなのだが、そう聞かれるとせっかくなので聞きたいことを聞いてみようと思った。
ゼロの仲間ということ以外は何も知らないのだ。

「ゼロの愛人って本当?」

の言葉で盛大に顔を顰められた。
黒の騎士団内での噂なのだが、本当かどうかは分からないがその反応からすると彼女にとっては大層不満のようである。
となると愛人説は噂だけということになる。

「何故そんな発想になるのか、思考回路が理解できんな」
「日本人ってそういう噂が好きみたいだから、仕方ないんじゃないのかな?」

日本人だけとは限らないが、そういう関係の類の噂を好むのは人が集まれば仕方ないだろう。

「大迷惑な噂だ」
「じゃあ、愛人ってのは違うの?」
「違うな」

本人がきっぱり否定したので違うのは本当なのだろう。
長い付き合いになるはずだが、ルルーシュの好みの女の子というのは聞いたこともない。
やはりナナリーのような優しい女の子がいいのだろうか。
ルルーシュの前でそういう事を言おうものなら、チェスの駒を無言で投げてくる気がする。

「そういえば、名前知らないや。僕は、君は?」
「C.C.だ」

あれ?とは思う。
その名前らしきものを少し前に聞いた。
怪しさ大爆発のバイザーの青年がその名前を言っていた。

「もしかして、銀髪のバイザーかけた人知ってる?」
「マオに会ったのか?」
「あの人、マオって言うんだ」

会話が成り立っていたのか成り立っていなかったのか分からないが、そういえば彼の名前を聞いていなかったことを今更思い出す。

(なんか、意外なところでC.C.さんを発見って感じかもしれない)

の目について何か知っているだろう人。
バイザーをかけた男は、と自分は違うと言っていたので、また会っても何かを話してくれる事はないだろう。

「ねぇ、C.C.さんって何?」
「お前にそれを言う必要があるか?」
「うーんと、出来れば聞きたい」

はにこっと笑みを浮かべてC.C.を見る。

「だって、多分何か知っていると思うから」
「何か?」
「一緒だと思うし…、あ、でもマオって人は違うって言ってたから違うのかな?種類としては違うかもしれないし、効果も違うけど、似ていると僕は思うんだよね」
「何を言っている?」

恐らくC.C.は何かを知っている。
それは大した情報じゃないかもしれない。
でも、の目についてこれが普通と違うことを知っているはずなのだ。
はかけているサングラスを取る。
紅く輝く瞳でC.C.を見ると、C.C.の顔に驚愕の表情が浮かぶのが見えた。

「ね、契約って何か知ってる?」
「おまえ…」

紅い瞳に浮かぶのは、何かの紋章なのか。
鳥のような形のそれ。
小さく笑みを浮かべていると、驚いたままのC.C.がしばらく見つめ合う。

「何をしている?」

その状況を変えたのはゼロの声だった。
ゼロがふとの方を見て、息を呑んだのが分かった。

「C.C.…!」
「私ではない」
「どういうことだ?」

どこか焦ったようなゼロの声には首を傾げる。
これはそんなに驚くようなことなのだろうか。
そもそもゼロは小さい頃のの目を何度も見ているのだから、珍しいものでもないだろうに。

、来い」
「へ?」

はゼロとC.C.を見比べて、さっさと歩き出した2人についていく。
この場で話すのはまずいことなのだろうか。
言われるままについていき、ゼロの私室と思われる場所に招かれる。
広くはない1室に、ゼロ、C.C.、の3人のみとなる。

「おまえ、それはいつからだ?」
「うん?この目のこと?」

C.C.の問いには自分の目を指し示す。

「生まれた時から」
「生まれつきか?」

ゼロの言葉には頷く。
嘘などついていない。

「異なる摂理」

生まれる前、まだ母体にいるが覚えている言葉は少ない。
まだ言葉を理解できるかどうか怪しい赤ん坊に全てを覚えていろというほうが酷だろう。

「異なる時間」

聞こえてきた声が、男のものか女のものかも分からない。

「異なる命」

自分が思ったのは、生きたいという思いだけだった。
それが何を意味するのかも分からず。

「覚悟があるのならば」

本能に従っただけ。

「契約を」

”契約”の意味すら、その時は理解していなかったかもしれない。
今はそう思う。
今同じような契約を持ちかけられたら、果たしてそれに自分は応えるだろうか。
それは分からない。

「僕が覚えているのはこれくらい。流石に赤ん坊にこれ以上覚えていろってのは無理な注文だよ」
「赤ん坊だと?」
「僕が分かっているのは、多分僕は生まれるはずがなかったということ、でもその契約によって生まれることが出来たこと、契約によってこの力が授けられたこと、それだけだよ」

この力に関しては、恐らくゼロが知っていることよりも、が知っていることの方が少ないのではないのだろうか。

「C.C.、お前以外にもギアスを与えることが出来るやつがいるのか?」
「いる」
「ならば、が持っているギアスはお前以外の誰かが与えたということだな」
「そうなるな」

誰かが与えたもの。
そう、と契約をした”誰か”がにこの力を与えた。
少なくともその誰かは、C.C.ではないのだろう。

「これってギアスって言うの?」
「こいつがそう名づけた」

C.C.が目でゼロを示す。

「じゃあ、契約って何?」
「そんなことまでは知らないな。お前が誰とどういう契約をしたのか、当人同士しか分からないものだ」
「え、そうなの?」

その時のことを詳しく覚えていないには、契約の内容がどんなものかさっぱりだ。
となるとその契約主を探すしかないということなのだろうか。

「ギアス所持者がこんな近くにいるとはな」
「しかも、暴走済みだ」

ため息をつきながらの前者の言葉はゼロ、ちらりっとを見ての後者の言葉はC.C.。

「暴走済み?もしかして、これって発動のコントロールとか出来たの?」
「知らないのか?」
「だって、これが普通の人と違うって気づいた時には、発動のコントロールが全然受け付けなかったんだもん」

赤ん坊に発動のコントロールをしろと言う方が無理だろう。
発動しっぱなしで生まれたが、ギアスを暴走させるようになるまでそう時間はかからなかったはずだ。

「よく、そんな状態で日常生活を送れたものだな」

呆れたようなC.C.の言葉。

「慣れたから。これでも小さい頃は周りの人間が怖くて閉じこもりっきりだったしね。これもなんとかコントロールできるようになってから、普通に生活できるようになったし」
「コントロール?」
「うん、発動中でも距離のコントロールをできるようになったの」

普通の視界の距離というのがどういうものかはには分からない。
の視界は、視力がとってもいい人の視界くらいになっているはずだ。

「何かを知る…いや感じるギアスか?」

ゼロの言葉には驚く。
の数少ない言葉で、よくそこまで考えられるものだ。
ゼロに対して隠す必要もなかったは、慌てなかったが少し驚いた。

「感じるというより”視る”かな?声は聞こえないし、見えるのは情景だけだけど、距離は殆ど無制限。たぶんやろうと思えば月の表面も見えるかもしれない」
「視界を広げられるということか」
「うん。ロールパンの動向はたまに確認してるし…」

そこでハタと気づく
この力の事をゼロに知られてしまうのはまずいのではないだろうか。
今後の行動に支障がでるとか、この力を利用しようとするのではということではない。
ゼロがこの力を利用するのならば別に構わないと思うし、その為に行動に制限を付けられても構わない。
問題は過去の事だ。

(昔ナナリーと義兄上のことをこっそり良く視ていたとか知ったら…怒る、よね?)

「どうした、
「うえ?!あ…、えっと、えっと、えっと…」

あからさまに視線を上へとそらす。

「お、怒らない…?」
「何がだ?」

表情が見えない分、ちょっと怖い。
いや、表情を”視”ればいいのだが、こんなことで力を使っていいものか。

(あ、でも、その前に、ゼロが義兄上だってこと僕が気づいてること知らないよね)

考え込めば考え込むほどパニックになってくる
ゼロに対してはルルーシュに対してと同じように話をしているだったが、良く考えれば、ゼロの方はルルーシュとしてではなくゼロとしてに接しているのではないのだろうか。

「何を隠している?

少し低くなったその声に、は反射的にびくりっとなってしまう。
不機嫌なルルーシュがそんな声を出す。
そんな時ははルルーシュに逆らえないのだ。

「ご、ごめんなさい!昔からナナリーと義兄上を覗いていました!!」

そういうわけで反射的に本音がぽろっとこぼれてしまう。
一瞬しんっとした空気が漂う。
は自分が今口にした言葉を反芻し、思わず口をふさぐ。
だが、出てしまった言葉は取り消すことなどできない。

「お前の事、バレているようだぞ、ルルーシュ」

そう冷静に指摘したのはC.C.だった。