黄金の監視者 16




数日してナオトは決意したようだ。
黒の騎士団への入団を希望することを。
噂では黒の騎士団は、入団を希望すれば基本的に誰でも入団できるようである。
それでもスパイかどうかを入念にチェックされるようで、ブリタニア人はかなり警戒されるようだ。

も入るつもりなのか?」
「うん」
「ブリタニアがそんなに嫌いか?」
「それもあるけど、ゼロならきっとナナリーに優しい世界を作ってくれると思うから」

ゼロはルルーシュだから。
ルルーシュならばナナリーにとって優しい世界を必ず作ってくれる。
だから、それに自分の力が少しでも役に立つのならば、黒の騎士団に参加したい。

「勿論、入団拒否されたら仕方ないけどね」
「大丈夫じゃないか?一応、お前、”新宿の侍”だし?」
「ゼロの前ではそんな存在、ちっぽけなものみたいだけどね」

ゲットーではゼロの存在が救世主のようにささやかれている。
黒の騎士団への入団も、その噂をたどっていけばなんとか分かる。
手続きにはやはり数日かかるようで、希望を伝えてから実際の受付人に会うまでに時間もかかる。

「やっぱりここで反ブリタニアといえば日本人ばかりだろうし、ブリタニア人はあまり歓迎されないだろうし」
「案外ブリタニア人の協力者もいるかもしれないぞ」
「…だといいけどね」

黒髪のウィッグをつけていても、サングラスをして目の色を隠していても、やっぱりがブリタニア人であることには変わりはない。
遠目ではわからなくても、近くで見ればそれが分かる。
日本人とブリタニア人の顔の作りは同じようで違うのだから。
何よりも名前である。
・リキューレルはどう考えても日本人の名前ではないだろう。

「若いんだから、あまり考え込むのはやめておけよ」

ぽすんっとの頭に手を置くナオト。
心配してくれているのだろう。
ナオトが入団できたとしても、が入団拒否をされてしまったら、ナオトとの同居生活もここで終了になってしまうだろうか。

(なるようにしかならない、か)

とりあえずは黒の騎士団からの連絡待ちである。
の名前がトップのゼロにまで伝わればどうなるか、果たしてルルーシュはどう判断するか。
分析が得意でないには、ルルーシュがどうでるのかすら分からない。
本当に流れに任せるままである。



案の定というべきか、黒の騎士団入団の時点では引っかかった。
ブリタニア人がなぜ入団希望などするのだ、ということで。
ナオトは日本人であるのであっさりと許可されたのだが、に対しては騒がれた挙句、ゼロの前に引っ張り出されることとなった。
を心配したナオトも同行してくれて、そしてゼロの前に出るということは幹部の皆さんがそろっているということで、幹部の人たちは殆どが日本人なのである。
だからこそというべきか、皆一様に顔をしかめていた。

(あ〜、なんか、予想通りの反応)

黒髪のウィッグとサングラスをつけたままのだが、ブリタニア人だと分かってしまっているからか、向けられる視線は厳しいものだ。

(やっぱり、入団希望は早かったかなぁ…)

もう少し黒の騎士団の存在が大きくなり、規模がテロ組織などと言えるようなほどの小さなものでなくなれば、きっとブリタニア人の協力者だって出てくる。
そして徐々に偏見がなくなってくる。
その時に入団を申し出るべきだったのかもしれない。
しかし、その視線は意外なところから変わっていく。

「お兄ちゃん?!」

どこかで聞いたことのあるような少女の声と共に、1人の少女が飛び出してナオトに駆け寄る。
赤い髪のとそう年が変わらない、どこかで見たことがあるような気がする少女。
あれ?とは思うが、どこで見たのかを思い出せない。

「カレン?!」
「お兄ちゃん、生きて…!」

思わず驚いてナオトと少女を交互に見る
ナオトに妹がいるとは聞いていたが、こんなところで会えるとはなんという偶然。
よく考えれば、テロ組織に参加していたナオトと仲が良かっただろう妹も、混血とはいえ反ブリタニアの考えを持っているかもしれないという可能性は十分あった。
となれば、黒の騎士団に参加している可能性だってないとは言い切れなかったはずだ。

(あ、ちょっと待って、確かカレンって名前…)

「カレン・シュタットフェルトさん?」

ぴくりっとの言葉に反応して、少女…カレンがすごい勢いでの方を見る。

「違うわ!」
「え?違うの?ごめん…」

似ているなと思ったのは間違いだっただろうかと、は反射的に謝る。
新しく生徒会に入ったカレン・シュタットフェルトとはあまり交流がないので、彼女がそうであるとは言い切れないのだ。

「いや、違わないよ、。シュタットフェルトも、もうひとつのカレンの名前だ」
「お兄ちゃん!私は紅月…」
「分かっているから、カレン」

ぽんっとカレンの頭に手を置くナオト。

「カレンを知ってたのか?」
「うん。同じ学校だから」
「そうか…。カレン、アッシュフォード学園に通っているんだな」
「そう、だけど、お兄ちゃんどうして…?」

どうして生きていることを教えてくれなかったのか、と聞きたいのだろうか。
それとも他に聞きたいことがあるのだろうか。

「右腕がないんじゃ、足手まといにしかならないだろ?」
「そんなことないっ!生きていてくれるだけでも、私は良かったのに…っ!」
「悪かったよ、カレン」

ぽんぽんっとカレンの頭を撫でるナオト。
本当に仲の良い兄妹なんだな、とは思う。
自分は実兄と会話らしい会話をしたことが数えるほどしかなかった。
仲が良いとは言えない兄弟だっただけに、仲の良いきょうだいを見ると微笑ましいと思える。

「けど、ナオト。生きていることくらい連絡くれても良かっただろ?」
「要…。いや、ほんと悪い。まともに動けるようになったのが、あれから3ヶ月も経った後だったし、お前らを危険にさらすことにもなるんじゃないかって思って…」

黒の騎士団の幹部の1人だろうか、その男が親しげにナオトに話しかける。
テロ組織で仲間だった人なのか、それとも長年の友人なのか、随分と親しいようだ。

「案外、てめぇがナオトをそそのかしたんじゃねぇのか?仲間の所に戻るなって」

誰の声だったのか、その声でいっせいにに視線が集まる。
は小さく首を傾げる。
そう言われても、そんな事実は全くないので困るだけだ。

「玉城、やめろ。はオレを助けてくれた子だぞ」
「なんだよ、ナオト!ブリタニア人をかばう気か?!」

かちゃりっと玉城と呼ばれた男はに銃を向ける。
その瞬間、の雰囲気がふっと変わる。
持っていた刀へと手を置き、銃を構える男を静かに見る。

「銃口、向けたね」
「…な、なんだよ?!」

相手が攻撃してくるのならばは容赦しない。
幸い目の前の相手は、にとって初対面。
害になるなら、消すことなどにためらいも感じない。

「玉城、銃口を下ろせ!斬られるぞ!」
「はあ?!ナオト、お前、こんな子供相手に何言って…!」
「単身でナイトメアを倒すような相手にお前が敵う訳ないだろうって言っているんだよ!」
「は…?!」
「とにかく下ろせ!」

ナオトは玉城の元へとずんずんっと近づき、左手でぐいっと銃口を下ろさせる。
同時にもすっと雰囲気を戻し、刀から手を離す。

は怪我をしていたオレを助けてくれてから、ずっと一緒に暮らしている、いわばオレの同居人だ。それから、思いっきり反ブリタニアだ。それはオレが保障する」
「思いっきりって、ナオトさん…」

確かにはブリタニアが嫌いだが、思いっきりと強調されるとちょっと複雑な気分である。
そんなに自分の言動はあからさまだったのだろうか、と。
ナオトの声にも他のメンバーは納得したのかしなかったのか、微妙な表情だ。

「でも、お兄ちゃん、その子が本当に・リキューレルなら、混血なんかじゃない生粋のブリタニア人で、学校では反ブリタニアでもなんでもないと思ったけど」
「だ、そうだけど?
「へ?」

ブリタニア人だろうとナオトには思われているが、はそれをはっきりとは肯定してない。
家族構成も、詳しい事情も何も話していない。
だから、ナオトが説明したくても説明できないのだろう。
は少し迷った後、つけていたウィッグを外す。
ぱらりっとこぼれる金髪。

「確かに僕はブリタニア人の両親から生まれたブリタニア人だよ、カレンさん」
「あんた、やっぱりアッシュフォード学園にいるね」
「うん」
「何でブリタニア人が、黒の騎士団に入団を希望するのよ?」
「えっと…」

どう言うべきか迷う
怖いのはずっと黙ったまま、こっちを見ているか見ていないのか分からない仮面の男、ゼロだ。
黙ったままのルルーシュほど怖いものはない。

「1つはロールパンへの嫌がらせ」

ロールパンの言葉にぶっとナオトが噴き出す。
またブリタニア皇帝の髪型でも思い出したのだろうか。

「ナオトさん、噴き出さないでよ」
「だ、だってな…」
「別にいいけどさ…。もう1つは、僕の大切な人が笑顔でいられるためには、今のブリタニアでは駄目だから」

カレンにはその言葉で分かっただろう。
アッシュフォード学園内でののナナリー大好きの意思表示はとてつもなく分かりやすい。
先日ナナリーが絡んだだけでスザクにとび蹴りをかましたほどなのだから。

「僕単体だけじゃは小隊を1つ全滅させることくらいしかできないし、仲間を率いて行動を起こすにしても指揮官としての才能とかもないから無理。だから、黒の騎士団に参加できればって思って入団希望したんだ」

力はある、でもその力は国という強大な力の前ではちっぽけなもの。
たった1人の大切な少女の幸せな世界すら作ることもできない。
ブリタニア人であるの扱いをどうするべきか、恐らく最終的な決定権はゼロにあるのだろう。
周囲の視線がゼロに集まる。
ゼロは少し顔を上げてを見る。
本当に視線が向けられているのか、仮面をかぶっている状態では分からないが、確かに視線が向けられたとは感じた。

「どんな結果を出せるのかが重要だ。と言ったな」
「うん」
「お前は何ができる?」
「戦闘全般」

ナイトメアの操縦は、シュミレーションを昔少しかじった程度なので、出来るかどうか分からない。

「人は殺せるか?」
「今更」

ふっとは笑みを浮かべる。
もう数え切れない人の命を刈り取ってきた。

「ブリタニア人を殺せるか?」
「僕が最初に殺したのはブリタニア人だったよ」

ナナリーとルルーシュ、そしてマリアンヌとの幸せだった世界を壊したのもブリタニア人。
守ろうとしてくれていた人もいたのは知っている。
けれど、気持ちだけじゃ何も出来ない。

「いいだろう。だが、結果を出せなければ、お前の存在は必要ないことを覚えておけ」
「分かってる」

は頷く。
ゼロがブリタニア人であるの存在を認めた。
それだけで幹部はを受け入れざるを得ないだろう。
歓迎してくれる人が少なくとも、はそれを殆ど気にしていなかった。